くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

コテコテの「もの」

広瀬正先生の「もの」という作品へのオマージュショートショートです。

第一の学者がいった。
「私は、この『もの』は古代原住民が使用した武器の一種であろうと考えます。この『もの』を手に持って相手を殴れば、顔面等に相当の被害を与えることが出来ます。又、相手の攻撃を受けとめるのにも、この『もの』は使用出来ます。この複数の陥没は、そうして出来た物なのです。おそらく古代原住民は日常、護身的にこの『もの』を使用したのでしょう」

第二の学者が立ち上がった。
「私は、この『もの』が武器であるとは思いません。この『もの』には、複数の陥没している部分がありますが、規則的な配列で、その表面が少し焼滅しています。この表面部分から色々の物質が検出されましたが、私はその中に古代原住民が好んだという植物ムギの成分があるのを発見しました。古代原住民は、一種の嗜好物として、この陥没した部分でムギを焙煎して、その香りを楽しんでいたのではないでしょうか」

第三の学者の番がきた。
「私は両先生の御意見にはまったく賛成出来ません。お二人とも、この『もの』にある陥没を勘違いなさっている。この陥没を裏返してみると突起となります。この突起という発想こそ、この『もの』が何であるかを解明する重大な鍵になると思うのです。私は色々と研究した結果、この複数の突起の位置が、古代原住民の椅子の座面に、ほぼ一致することに気がつきました。古代原住民は、この『もの』の上にフォーマルな座り方、つまり正座をしていたのです。よって私は、この『もの』は古代原住民が何か医療の目的の為に座っていた物であろうと推察します」

だが、第一の学者も第二の学者も、自説を主張してゆずらなかった。とうとう、結論はでなかった。
やむをえず、タイムマシンが使用されることになった。
しばらくして、一人の古代原住民がタイムマシンにのせられて、連れて来られた。
古代原住民はいった。
「この『もの』が何やってゆうんか、お尋ねでっか?これは、このままやったら使えまへんがな。ええっと」
男はあたりを見まわして、部屋の隅にあった着火調理器を持ってきて、その上に『もの』をのせた。
「やはり焙煎ではないか」
第二の学者はいったが、男の作業はまだ続いた。男は自分の懐から、小麦の粉を水で溶いた物とタコを取り出した。そして、おどろくほど器用な手さばきで焼きはじめた。
やがて男は焼き上がった物を見せて、口に頬ばりながら、いった。
「これは『たこ焼き器』という『もの』でっせ〜ハフハフ」