- 作者:ロジャー・ゼラズニイ
- メディア: 文庫
あらすじ
聖杯探索の旅に旅に出た円卓の騎士は、ひとりまたひとりと流浪の果てに散っていった。だが、最強にして最大の騎士である彼は、いくたの王国が勃興し、瓦解するさまを見つめ続けた。彼の名はランスロット。マーリンの魔力に捕えられ、現代に生きるさすらい人。そして、彼こそが“キャメロット最後の守護者”なのだ!――華麗に綴る表題作ほか、冷凍睡眠が実用化された近未来を舞台とする古風なラヴ・ロマンス「心はつめたい墓場」宇宙海賊となった男の心の軌跡を描く「復讐の女神」など、さまざまな顔をもつゼラズニイが、その本領を発揮してヴァラエティ豊かに贈る傑作短篇集!
ゼラズニイの初期短編集。バラエティ豊かなSF掌編が多い中、白眉は「フロストとベータ」!みんなが傑作と言うのも頷ける。人間がすでにいない世界で、ロボットが人間とは何かを追い求める。このテーマがスゴイ。最早これは新たな神話だ!他にも「復讐の女神」がスペオペなSFで、善と悪を問う熱いテーマで楽しかった!「血と塵のゲーム」「ここにも悪魔を愛するものが」あたりも掌編ながら、ナイスアイデアで面白かった!ゼラズニイは初読みだったが、これは長編も手にとってみなければならないな!
- 受難劇
掌編。本当の受難劇はキリストの磔刑の再現だが、これは機械人たちがル・マンのレースでの事故を再現する。デビュー作らしいけど、そのころから宗教的神話的なテーマを持ってたのね。作品の前に解説エッセイも載ってて、面白い!
- 騎士が来た!
掌編。山間の村に騎士が来た、というふうに書かれてるけど実はメタファで、本当は……。たしかにコレと騎士は似てるかも!アイデアだね!
- 吸血機伝説
セントラルから離脱して他のロボットからエネルギーを吸って生きている吸血機ロボット。そして地球最後の生
物(?)である吸血鬼フリッツ。その二人の対話。吸血鬼はかつて地球最後の普通の人間と戦い、好敵手だった昔話をする。普通の人間は一人も出てこないけど、切ない傑作!創元SF文庫の『影が行く ホラーSF傑作選』や、二見書房から今年出た『甘美で痛いキス 吸血鬼コンピレーション』にも収録されてるらしい。色々なアンソロジーに収録されるのも納得だわ!
- おそろしい美
掌編。情報生命体みたいなのが役者の男に取りつく。その生命体は審美家として悲劇を学びに来たと。悲劇は、恐怖と同情らしい。情報生命体に恐怖は感じられても、同情は理解できないだろうな〜。
- 復讐の女神
作風一転してスペオペ!宇宙警備隊のコーゴは、異種族に惚れる。しかしその異種族は人類に滅ぼされようとしている。そこでコーゴは人類を裏切り、宇宙海賊となり破壊活動を開始。それに対して、惑星地理学者とサイコメトラーと宇宙版CIAがタッグを組んで、コーゴを倒す任務に。熱いバトルの連続!いいね〜!これぞSF!正義から悪への転向、しかしそこにはそれぞれの正義がある。熱いストーリーの裏に、重いテーマ性も見え隠れして、面白かった!ってかこの短編、河出文庫の『20世紀SF』にも収録されてたのね!ゼラズニイらしい短編なのかは分からないけど、メッチャ面白かったので納得!
- 心はつめたい墓場
中編。選ばれし人々が冷凍睡眠に入り、たまに起きてパーティーに興じる、天上人のような《パーティー・セット》。そこで起こる男女のイザコザ。選ばれし人々だけど、どんどん時代から取り残される苦悩。金持ちで好き放題してても、苦悩するのが人間よね。未来でも。
- いまこそ力は来たりて
掌編。超能力者同士でテレパシー。しかし何かに阻害され、テレパシーが使えなくなる。そこに助けてくれたのは、同じ超能力者だったが。これまた切ない物語。命をかけた交流は心に迫るものがある
- 異端車
掌編。車とサイボーグの闘牛!迫る車にアルミのマントとモンキーレンチで闘う!カッコイイ!「闘車場」や「機闘士(メカドール)」など訳文もカッコイイ!さすがハーラン・エリスンの『危険なヴィジョン』に収録されただけあるね!
- フロストとベータ
うぉぉぉ!傑作じゃねーか!北半球の全管理を任されたロボ、フロスト。南半球はベータ。そして任した人類はすでにいない。そんな中フロストは人間を学ぶために書物や芸術など人類の遺物を勉強しはじめる。そしてフロストは最後には人間に…。これ最早、神話じゃん!人間になりたいがために、人間の感情を学ぼうと各地を回って人類の遺した物を学ぶフロスト。この情熱たるや。そして最後には、新たな世界がはじまる。すごい!人類はすでに絶滅してロボットしか出てこないのに、心動かされる物語。これはみんなが傑作って言う理由も分かるわ!!そしてこれが表題作になっていないという不思議w ってかこの傑作はもっと広く読まれるように復刊すべきだぞ!
- 生と死の浜辺
《センター》に追われる少女を助けた、半身半機械の男。浜辺の家で一緒に過ごすようになる。センターという組織も謎だし、生きることと死ぬことを問い続ける二人も謎。難しいテーマだけど、独特の空気感。これが「ニューウェーブ」ってやつなのかな?
- 血と塵のゲーム
超存在二人が、地球を見下ろし、歴史を自由にいじくってゲームする話。大カトーやルターやバベッジやフルシチョフを暗殺したり暗殺から救ったり。面白いアイデアの話だ!しかしこれ小説とイラストのコラボ企画だったらしいけど、どんなイラストが付く予定だったんたろ?
- 賞はない
大統領演説会。警備にはサイキッカーまで。しかしここに夢遊病のような男が。射的の夢を見ながら、大統領に銃を向ける。この夢遊病のような症状は脳科学のSFアイデアを使ったもので、それでサイキック警備から逃れるという設定は面白い。
- ここにも悪魔を愛するものが
掌編。タイムスリップしてきた男が映画館に入り、スナッフムービー(実際の殺人を撮った映画)を見て、ニヤリとする話。果たしてこのタイムスリップ男は誰なのか?1888年から来た男といえば、アイツよね。なかなか尖ったアイデアだ!
- キャメロット最後の守護者
円卓の騎士ランスロットが現代まで生きてる話。何千年も聖杯を探し続けて、悲壮。しかもこれにはある運命が絡んでいて。ってか、アーサー王伝説も正直言ってうろ覚えだから、もっと勉強してから再読したい!
- そのままでいて、ルビー・ストーン
異星の昆虫型種族による結婚式。この種族は三人一組で結婚したり、特殊な生態。こんなグロテスクな発想を思い付くなんて、すごい!そしてそれをビデオに収めようとする地球人。地球人の好奇心は下世話よね〜!?
- ハーフジャック
身体の半分を機械化したサイボーグ。宇宙船に接続して一体になるためのサイボーグ。そんな主人公も港で休息をとるときには、傍らに女も。ってかこんな話がこの短編集の末尾でいいのか?普通に小品すぎるんだが(笑)どうせなら傑作だった「フロストとベータ」で締めてよ〜。
収録作品
- 受難劇
- 騎士が来た!
- 吸血機伝説
- おそろしい美
- 復讐の女神
- 心はつめたい墓場
- いまこそ力は来たりて
- 異端車
- フロストとベータ
- 生と死の浜辺
- 血と塵のゲーム
- 賞はない
- ここにも悪魔を愛するものが
- キャメロット最後の守護者
- そのままでいて、ルビー・ストーン
- ハーフジャック