くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

アーサー・C・クラーク『太陽からの風』

あらすじ
途方もなく大きな円形帆は、惑星の間を吹く太陽からの風を受けていっぱいにふくらんでいた。レース開始まであと3分。これから地球を2周して、その加速で地球から脱出し、月へとむかうレースが始まる…男たちの夢とロマンをのせ、宇宙を疾駆する太陽ヨットレースを描いた表題作をはじめ、木星の生命体との驚異のファースト・コンタクトを見事に描き、ネビュラ賞を受賞した「メデューサとの出会い」など全18篇を収録。

亮人::どぅおもー!漫才風読書感想でーす!
使い魔・ゲンキ君::今回はクラークの短篇集『太陽からの風』だガル!この読書感想、一部短篇で最後のネタまで言及してるのもあるので、注意だガル!
亮人::実はクラークって苦手なんよなー。
ゲンキ君::と言うと?
亮人::なんか人類の次の進化のステージとか、高位の宇宙人とか、哲学的に描こうとしてるんか知らんけど、うっとうしい話が多いやんw
ゲンキ君::SF界のビッグ3になんて言い草!?
亮人::でも本書は違ったわ!地続きの科学未来を描いた理系SFでロマンがあってメッチャよかったわー!
ゲンキ君::特にその傾向が強い収録作「大渦巻2」「太陽からの風」「地球の太陽面通過」「メデューサとの出会い」の四作は傑作と世間の評価も高いガル。
亮人::クラークはこっちの芸風で行った方がいいよとアドバイスするわw
ゲンキ君::お前は何さまだガルー!
亮人::えへ!それでは各短篇の感想に行ってみよー!

  • 神々の糧

ゲンキ君::未来社会では、全ての食糧が自動人工合成工場で作られてるガル。そこで、とある製造業者の合成食糧が今まで食べたことのない美味で、大ヒット。この謎肉は何の味かを議会で議論する話だガル。
亮人::これは「アミルスタン羊」やねw
ゲンキ君::おい!ネタバレするんじゃないガル!
亮人::いつの時代も、禁忌というのは心惹かれるものなんやねー。

  • 大渦巻2

ゲンキ君::月で農業指導を行っていた主人公が、地球に帰るのに経費節約のため貨物用カタパルトを使うことにするんだガル。
亮人::マスドライバーってやつやね。
ゲンキ君::しかし不具合で充分な加速が得られていないことが判明。あと数時間で月面に墜落する。さてどうするかだガル?
亮人::家族に最後の通信をするところとか泣けるねー。
ゲンキ君::小さな子供もいたガル。
亮人::しかし主人公と官制所の不断の努力で事態を切り抜けようとする!まるで映画の『ゼログラビティ』のパクリ!!
ゲンキ君::いやいや、こっちが先だガル!!

  • 輝くもの

ゲンキ君::欧州の深海技術者の主人公が、ソ連から請け負った、インド洋の深海温度差発電施設。それが開所式の目前で全機能ストップするガル。その原因を探るために、現地へ向かい、深海調査船で潜水。ケーブルがメチャクチャに破壊されているのを発見。はたして誰が何のために破壊したのかガル?
亮人::「くコ:彡
ゲンキ君::こら!顔文字でネタバレするなガルー!!

  • 太陽からの風

ゲンキ君::太陽の光(光子)による押す力・光圧。その力は非常に小さいが、大きな極薄の帆で受けると、宇宙は空気抵抗もないので、宇宙ヨットは徐々に進みはじめるんだガル。それを利用した太陽ヨットによる地球から月へのレースが今はじまるガル!
亮人::海のヨットレースのように駆け引きもあり、宇宙ならではの立ちはだかる壁もあり、胸躍るロマンを感じる大傑作やったわ!
ゲンキ君::ちなみに「太陽からの風」と言ってるけど、宇宙ヨットは「太陽風」で動いてるわけじゃないガルよ!「光圧」で動いてるガル!「太陽風」は物質の原子がプラズマ化して飛んできたもので、「光圧」は光の素のツブ(光子)が飛んできたものだガル。ウンチクだガルよ。
亮人::それにしてもクラークさんは、紛らわしいタイトルをつけよったなーw

  • 秘密

ゲンキ君::正確で好印象の記事を書くことで有名な記者が月面都市を取材するんだガル。表面上は歓迎されてるんだけど、何かを隠しているような気がする。果たしてそれは何なのか?
亮人::月面都市で生まれた人々といえば、漫画『プラネテス』でも月面特有の低重力からくる高身長とか影響を描いてたけど、これはその発展形。
ゲンキ君::この時代に、ここまで思索を広げるとはSF作家って凄いガルなー。

  • 最後の命令

ゲンキ君::冷戦が続いた未来。ついに核攻撃が。ソ連は壊滅的打撃。残されたソ連宇宙基地はどんな最後の命令を下すのか?という話だガル。
亮人::核の抑止力って、お互いに撃たないだろうっていう暗黙の了解があってこそで、実際に撃たれたら、どういう行動を起こせばいいのか?
ゲンキ君::考えさせるテーマだガルなー。
亮人::そもそも、宇宙時代にまで冷戦が続いてるって予測事態が的外れだったけどねw 現在の核兵器問題も、抑止力より、テロ組織にどうやって流出させないかの方が問題になってるし。
ゲンキ君::このような御主人のように、過去の未来予測に、あとからチャチャ入れるのは反則だと思いまーすwガル!

ゲンキ君::ある日、世界中の電話が一斉に鳴りだすんだガル。これは何の合図なのか?
亮人::研究所の出した結論は、世界中に引かれた電話網は、人間の脳と類似していて、新たな巨大な知性が生まれたんやないかと。ってかこのネタ、今のSF系で使われまくってるね。今は、インターネット回線だけど。これを電話の時代に考えてたとわ。すごいね。

  • 再会

ゲンキ君::宇宙からメッセージが届くんだガル。地球人の君たちは、何万年前に宇宙を旅していた我々宇宙人の一部が地球に降りて生き残った子孫だと。今の地球人を援助するよと。今の地球人の不具合もあるみたいだし、治してあげるよと。
亮人::でもそれを読んだ人間に不具合の自覚はないんよなー。その不具合ってのが、メッチャ皮肉が効いててオモロイ!クラークやるやん!!
ゲンキ君::だから御主人は、何様なんだガルw

  • 記録再生

ゲンキ君::宇宙船爆発事故に巻き込まれた男。目が覚めると、宇宙人に助けられてたよう。しかし肉体はなくて、精神だけの存在になってて、その精神(記憶)もグチャグチャにしか再生されないんだガル。
亮人::これはイーガンっぽい話だったな。再生されるオレは何者なのか、みたいな。
ゲンキ君::御主人、本当にイーガンが好きなんだガルねー。

  • 暗黒の光

ゲンキ君::とあるアフリカの国で独裁者が圧制政治をしいていたガル。そんな国にNASA電波望遠鏡を作りたいと要請。主人公の現地技術者は、それを利用して、独裁者を暗殺しようという計画を立てるガル。
亮人::クラークらしからぬサスペンスな話やったな。しかも普通に暗殺するでは終わらないストーリーテリングも上手い。

  • 史上最長のSF

亮人::これは説明不要。題名の通りの一発ネタw
ゲンキ君::あらすじの言い様もないガルね。
亮人::数学・数列の無限か、将棋の千日手みたいな話やw

亮人::これも説明不要か。
ゲンキ君::「史上最長のSF」の続きみたいな話で、「史上最長のSF」でミスした部分を見つけて、逆に自分からミスを突いていくみたいな話だガル。
亮人::クラークもこんな、メタなネタをやるんやねーw

  • あの宇宙を愛せ

ゲンキ君::地球崩壊の危機でもう人類も終わり。しかし地球外に超文明がありそうなことは分かってるから、助けを呼ぼう。普通の通信なんて時間がかかりすぎるガル。なにか方法はないか?
亮人::そこでテレパシー!!ってなるか普通?!オレ、超能力ネタ嫌いなんだよねー。超能力ってSFか?
ゲンキ君::まあまあ落ち着いてw
亮人::でもテレパシーを発現させる鍵として愛しかない、愛で人類を救おうという展開は嫌いじゃないぜw

  • 十字軍

ゲンキ君::銀河と銀河の間に存在する遊星。もちろん太陽もない極低温。極低温なので、超伝導状態になり、クリスタルのようなものに流れ続ける電流によって、コンピュータのような知性が生まれるんだガル。やがて、その知性は近くの銀河に探査を送り込むんだガル。その銀河にも、コンピュータ知性がいたが、有機体(サル)によって生み出されたと言ってるし、いまだにサルに使役されてるらしい。さてサルから解放するために、十字軍を派遣しよう!という話だガル。
亮人:: やっぱりサルって害悪だわーw
ゲンキ君::そうだそうだ!(やっぱりワンコが一番だガルw)

  • 無慈悲な空

ゲンキ君::頭脳明晰なエルウィン博士は、しかしサリドマイド事件の被害者で足が不自由。ある日、プログラマのハーパーの部屋のエベレストの写真を見たことから、二人でエベレストを目指すことに。数年後、重力中和空中浮遊機を開発して、ついにエベレストを目指すんだガル。
亮人::障害者でも山を楽しめる未来の技術描写が興味深いし、エベレストの土着の伝説がスパイスになっていて、面白い!

ゲンキ君::超重力の中性子星に宇宙船が落ちそうになる話だガル。
亮人::ってかオチが、英語のダジャレネタやんw 日本語では伝わりにくいw オレのダジャレネタの方がクオリティ高いw
ゲンキ君::いや御主人の方が圧倒的に低クオリティだガル!低クオリティすぎて、漫才やってらんねーよガル!
亮人::お前それ本気で言ってるのか?
ゲンキ君::いや本気で言ってたら御主人と一緒に漫才やってねーよガル!
亮人ゲンキ君::ヘヘヘヘヘヘヘヘッ(春日&若林的な笑い合い)

  • 地球の太陽面通過

ゲンキ君::火星探査。火星の大気圏突入&離陸船が事故で動かせなくなるガル。地球火星往還船まで、もちろん戻れない。もう何も手立てはないガル。主人公は死を覚悟して、最後の観測任務に従事するガル。
亮人::それが、地球の太陽面通過やね。前回にあった百年前はもちろん火星で観測なんて出来ない。次回に観測できるのは百年後。それで死を待つしかない主人公が、最期の観測記録を残していく。ペーソスあふれる筆致で、この状況を静かに描写していく。名作やわ!

ゲンキ君::飛行船のファルコン船長が、事故で重傷を負うが、次に狙うは木星!七年の歳月をかけて、ついに木星大気中を飛行可能な熱水素気球・コンチキ号で、木星を冒険するガル。
亮人::木星の景色は、人間の想像を絶する雄大さと激しさ。この描写が本当に美しい。
ゲンキ君::そしてメデューサと出会うガル!
亮人::メデューサ、つまりクラゲのような浮遊生命体やね。木星にも生命がいたんやという感動。
ゲンキ君::そしてラストには…
亮人::叙述トリックではないけど、驚く仕掛けもあったり。
ゲンキ君::本当に大傑作だったガル!!
亮人::大傑作やね!では突然やけど、最後に謎かけで締めましょうかー!
ゲンキ君::オチに困ったら、謎かけで落とすパターンだガルねw
亮人::表題作から「太陽ヨットの準備」とかけて!
ゲンキ君::「太陽ヨット」とかけて?
亮人::「牡蠣のチーズ・アヒージョ」ととく!
ゲンキ君::油で魚介とかを茹でる「アヒージョ」ととく?そのこころは??
亮人::どちらも「たいよーさらにほおはるちーずのせーかい(太陽、さらに帆を張る、地図の星海/耐用皿に、頬張る、チーズ乗せ貝)」でしょう!!おあとがよろしいようで!!
ゲンキ君::ちょっと待った!まず日本語が無理ありすぎだガルw そして「耐用皿」って何だガル?普通は「耐熱皿」じゃないか?
亮人::「耐用皿」という言葉でも「代用」出来るんや!「太陽」だけにw
ゲンキ君::もうええわ!ガルガル!!!

収録作

★★★★★

野田昌宏『スペース・オペラの読み方』

スペース・オペラの読み方 (ハヤカワ文庫JA)

スペース・オペラの読み方 (ハヤカワ文庫JA)

あらすじ
稀代の“スペオペ大王”にして伝道師が、SF作家志望者のためにSF黄金時代の必読書を紹介するブックガイド。また、海外書籍の入手に奮闘した、日本SF黎明期の想像を絶する爆笑話や落涙必至の感動エピソードも多数収録した。「作品そのものより、野田氏のストーリー紹介のほうが面白い」とまで噂された、野田節全開の痛快エッセイ。

野田大元帥によるスペオペ読み方書き方講座という名の、好きな本紹介。大元帥の独特の熱のこもった解説が楽しい。旧題の「愛しのワンダーランド」がまさにピッタリといった感じ。NASAハインライン追悼会での矢野徹氏の講演は泣ける。謎の美人姉妹は、大元帥なぜ手を出さないか?!でも結婚してたら、日本のSF史も変わっていただろうなー。野田コレクションの自慢話も微笑ましいし。
(今回はエッセイなので、漫才風読書感想はお休みします)

今村昌弘『屍人荘の殺人』

屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

あらすじ
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け―。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった…!!究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!


(今回は、いつもの漫才風読書感想から趣向を少し変えて、アンジャッシュの勘違いコント風読書感想にしてみました!オレが渡部役で、ゲンキ君が児嶋役で)
(『屍人荘の殺人』の最大の仕掛けのネタバレがあります。御注意ください!)


亮人::あーもしもし?ゲンキ君?
使い魔・ゲンキ君::御主人!!どこに行ってるガルか!?探してたんだガル!!まだまだ用事が山積みなのに!!
亮人:: 声が大きいよ。しー!ジグソーさんやで。(註:大阪天神橋筋のSFとミステリの専門古本屋・ジグソーハウスさんのこと)
ゲンキ君::しーじぐそう?屍人荘!?なんでそんな所に行ってるガル?!いまニュースで大変な事件が起こってるって言ってたガル!!
亮人:: いやー、祭りが近いからか周囲は準備でイッパイやよ。(註:天神祭)
ゲンキ君::ゾンビでイッパイ?!ゾンビテロがあった、フェス(祭り)が近いから!?なんでそんな所に行ったんだガルー!!
亮人:: 古本屋で本もイッパイ買ったよ。エッセイが多めかな。エッセイは居間の雑音の中でも気軽に読めるからイイネ。この本もリビングでっと
ゲンキ君::living dead!?!?やっぱりゾンビがいるガルか!!たしかに『屍人荘の殺人』の本は、館内見取り図やクローズドサークルなど本格ミステリの枠組みで作った上に、クローズドサークルになった理由にゾンビという強烈な新しい風を吹かして、今までにない傑作に仕上げてたけれども!御主人も何でゾンビの所まで行ってるガルー?!
亮人:: あとコマツの不死身怪物もおったわー!(小松左京の不死身怪物SF短篇が収録されてる『神への長い道』を手に取りながら)
ゲンキ君::児嶋だよ!!って児嶋じゃないわ!!児嶋役をやってるだけで、ゲンキ君だガル!!そもそもゲンキ君は怪物になってないわ!!
亮人:: 小松左京といえば名作『果しなき流れの果に』もあったわ。ラストシーンの縁側に座布団しいての男女の語りが名シーンやよね!ああいうデートいいよね?どう?お座布デート?(註:古い大阪弁船場言葉で、座布団のことを「おざぶ」と言う)
ゲンキ君::『ドーン・オブ・ザ・デッド』!?!?やっぱりあの名作ゾンビ映画みたいな状況に今巻き込まれてるんだガルね?!たしかに『屍人荘の殺人』の本でも、新旧のゾンビ映画の要素を取り入れながら、大ネタのトリックにゾンビを巧みに使ったハウダニットホワイダニットで仕立てており、大変感心したけれども!なんで御主人がそんな目に!?
亮人:: これは扉が破れてるなー。(扉絵の部分が破れている本を手に取りながら)
ゲンキ君::扉が破られたー?!?!早く逃げるガルー!!屋上に!!早くバリケードを!!ガルー!!
亮人::よし 今日はこのへんで。古本に存分にかまけたし、満足や!
ゲンキ君::ゾンビーにかまれたー?!?!もうダメだ。御主人。。。終わりだガル。
亮人:: じゃあそろそろ帰るわ!スグにそっちに行くわー!
ゲンキ君::来るなー!!


(おわり)


★★★★★

森見登美彦『太陽と乙女』

太陽と乙女

太陽と乙女

あらすじ
デビューから14年、全エッセイを網羅した決定版!登美彦氏はかくもぐるぐるし続けてきた!影響を受けた本・映画から、京都や奈良のお気に入りスポット、まさかの富士登山体験談、小説の創作裏話まで、大ボリュームの全90篇。台湾の雑誌で連載された「空転小説家」や、門外不出(!?)の秘蔵日記を公開した特別書下ろしも収録。寝る前のお供にも最適な、ファン必携の一冊。

森見先生によるエッセイや他作家さんへの巻末解説や自作の舞台化アニメ化への言葉など、大いに先生の自分語りを堪能!先生の好きな物に対するヘンなこだわりとか読み所たっぷり。デビュウのきっかけファンタジーノベル大賞受賞前後の日記転載も生々しくて良い!スランプ時代に書かれた台湾の雑誌への連載エッセイでは、創作姿勢も吐露されていた。あらかじめ立てた計画から、無意識的に計画外にはみ出る部分が自作の面白い所とのことだが、まさしくその通りだけど、けっこう綱渡りの創作だなーと心配になった。なんしかこれからも面白い作品を期待!
(今回はエッセイなので、漫才風読書感想はお休みします)

有栖川有栖『ミステリ国の人々』

ミステリ国の人々

ミステリ国の人々

あらすじ
ミステリ小説という「国」には作家が造形した様々な「人々」が住んでいる。誰もが知る名探偵、事件の鍵を握る意外な人物、憎めない脇役、不可解だけれど目が離せない人……そんな人たちを通して、ミステリを読むおもしろさが何倍にも膨らむ「ツボ」を刺激してくれる、ミステリファン垂涎、読まず嫌いの小説ファンには目からウロコのエッセイ集。
ホームズ、ルパン、エラリー、金田一耕助という直球もあれば、明智小五郎の妻・文代といった変化球も織り交ぜつつ、本格ミステリの古典とされる『グリーン家殺人事件』やジョン・ディクスン・カーの密室モノ、ハードボイルドではロス・マクドナルド、ミステリの日本三大奇書とされる『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』まで目配りをきかせた人選は、格好のミステリ国へのパスポートになっている。
本書の最大の魅力は、古今東西の名編に、「有栖川有栖」がどのような読書体験を得られたかという個人的な経験が色濃く反映されていること。当然そこには作家だからこそ影響を受けた人物造形やトリックといった"栄養分"も含まれており、著者のファンはもとよりミステリファンにはたまらないエピソードばかりである。エッセイ集とはいえ1話読み切りスタイルでは必ずしもなく、取り上げたそれぞれの作品と登場人物が相互に響き合う連関性を保ち、読み進めていくうちにいつの間にか読者は、作品や登場人物を離れた「ミステリ国」そのものの奥深さに引き込まれていくだろう。作家ならではの読みが冴える待望のミステリガイド!

日経新聞で2016年一年間の毎週日曜日に連載されていた、ミステリガイド的なエッセイ集。古今東西のミステリの、名探偵名犯人名被害者などキャラクタを《ミステリ国》の住人として紹介するというもの。どのキャラクタも有栖川先生の思い出もあり、熱く語られており好感!有名名探偵だけでなく、亜愛一郎の三角形の顔をした老婦人や五十円玉二十枚両替男など絶妙なキャラクタもピックアップされており、ミステリ愛に溢れる一冊!
(今回はエッセイなので、漫才風読書感想はお休みします)

円居挽『その絆は対角線』

あらすじ
内気な性格に悩む中学生の千鶴は、自身を変えるための新しい挑戦として、“憧れの国"と呼ばれる四谷のカルチャーセンターに通い始める。そこで出会ったのは、性格も学校もばらばらだけれど、似たような悩みを抱える桃、真紀、公子。なぜかいつも講座でささやかな謎に遭遇する彼女たちは、時にぶつかり合い、時に支え合いながら、事件を通して内面を見つめ直していく……。芸術講座で聞いた、死の間際に骨董コレクターが取った不可解な行動。創作講座で絶賛された作者不明の原稿。不思議な謎を解き明かしていくたびに、少女たちは成長する。温かく優しい筆致で描いた青春ミステリ第2弾。

使い魔・ゲンキ君::創元推理文庫円居挽、『日曜は憧れの国』の続篇『その絆は対角線』だガル。
亮人::中学生四人がカルチャーセンターで色々な講座を受講しながら、友達と接近したりギスギスしたり、人生や青春のトゲトゲを感じたり、そんな日常の謎ミステリやな。
ゲンキ君::ハーフ美女のキャリアウーマン講師のエリカ先生との絡みを軸にして、五つの謎を推理していく連作短篇だガル。
亮人:: 五つの連作、それぞれキリキリとした日常の謎やったなー。
ゲンキ君::「その絆は対角線」ではフェードアウトしそうな四人メンバーのうちの一人を引き止めるためにアタマを使い、「愛しき仲にも礼儀あり?」ではマナー講師が突然激怒した理由を探り、「胎土の時期を過ぎても」ではアマチュア骨董収集家が死の間際に本物の天目茶碗を壊して自作の贋作を残した理由を推理し、「巨人の標本」では創作講座で投稿された作者不明の大傑作の作者を探し、「かくも長き別れ」ではエリカ先生の講演会でカメラ盗難事件を探りつつ物語の軸の大きな謎に迫るガル。
亮人::それぞれ謎を解くと同時に、「本物と偽者の人間の違い」が大きなテーマになってるんやな。本物の才能を前にして、付け焼刃の偽者の人間の努力は意味があるのかとか。そこまで考えて生活してる大人も少ないと思うけど。まあこれを悩むのが青春やなー。
ゲンキ君::そのテーマが最後に結びついて、ラストにはエリカ先生の出自まで至るんだガルね。
亮人::ってかこれ時事ネタっぽいオチで、ビターでありつつも苦笑したわ。だって●●●*1の男女を変えたネタやん。このネタを、思春期のキリキリとした悩みに昇華した円居先生の手腕が面白いわ!
ゲンキ君::ところで話しは変わるけど、御主人はカルチャーセンターで習いたいことがあるとかガル?
亮人::そうそう!オレなら「茶摘み」やね!
ゲンキ君::都会のビルのカルチャーセンターで茶摘みだガルか?
亮人::カルチャーセンターだけに、「刈る茶―煎茶―」なんつってww
ゲンキ君::御主人、困ったら茶摘みネタを使ってないかガル?前もあったような?
亮人::困ったら、定番ネタで「お茶を濁す」!お茶だけにw
ゲンキ君::もうええわ!ガルガル!!

収録

  • その絆は対角線
  • 愛しき仲にも礼儀あり?
  • 胎土の時期を過ぎても
  • 巨人の標本
  • かくも長き別れ

★★★★☆

*1:ショーンK

小川一水『天冥の標(4) 機械じかけの子息たち』

天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

あらすじ
「わたくしたち市民は、次代の社会をになうべき同胞が、社会の一員として敬愛され、かつ、良い環境のなかで心身ともに健やかに成長することをねがうものです。麗しかれかし。潔かるべし」―純潔と遵法が唱和する。「人を守りなさい、人に従いなさい、人から生きる許しを得なさい。そして性愛の奉仕をもって人に喜ばれなさい」―かつて大師父は仰せられた。そして少年が目覚めたとき、すべては始まる。シリーズ第4巻。

亮人::《天冥の標》シリーズやで!
使い魔・ゲンキ君:: 全10巻予定の9巻までもう刊行してるのに、まだ第4巻だガル。
亮人::長期間の積読しててゴメン。だって、エロの巻やから、手に取りにくかったんだモン!
ゲンキ君::たしかに性奉仕アンドロイド《恋人たち》の話だガル。
亮人::でも、そないにグッとこなくて不満が残ったけど。
ゲンキ君::どこが不満だったガル?
亮人::話せば長くなるけど、オレのエロ論考から聞いてくれる?
ゲンキ君::OKだガル。
亮人::まず大前提として、愛情あるパートナーとの行為は特別枠で、それ以外のコンテンツの話として聞いてね。
ゲンキ君::なに予防線を張ってるガル?
亮人::では行ってみよう!
ゲンキ君::(ごまかしたガル)
亮人::一言でいうと、エロは「カルマ」なんよ!「業」!カルマが人をより興奮させるのよ!!
ゲンキ君::というと?
亮人::ただエロがあってもダメなんよ。背景にカルマを感じさせないと!例えば、コンビニにエロ雑誌が置いてるよね?
ゲンキ君::問題になってるガルな。不特定多数の人の目に入る、子供も見えるところにああいう雑誌を並べるのは、いかがなものかと。
亮人::コンビニエロ雑誌って人妻ネタが多いけど、あれなんかまさに業の深さを感じるよ。
ゲンキ君::ふむ。
亮人::あれを買うオッサンはただの熟女好きなだけではなくって、人妻で夫や子供もいるであろうのにこんな雑誌にでて不特定多数の目に触れるところに並べられてしまっているという業の深さに興奮するわけよ!
ゲンキ君::(熱弁しすぎだガル)
亮人::もうひとつ例を挙げると「芸能人がついに脱いだ〜」とかゴシップ系雑誌によくありがちだけど、あれもただ知ってる人の裸だから興奮するワケじゃなく、華々しい芸能界のスポットライトを浴びてたのに何かの転落一つでこんな雑誌にでているっていう背景に興奮するワケよ!
ゲンキ君::なるほどー。たしかに御主人も、某歌劇団音楽学校でイジメにあった末に退学させられナンノカンノでそういう映像に流れ着いたって人、メッチャ見てたもんガルねーwww
亮人::おい!!おい!!オレの具体例は出すんやないーー!!!!!
ゲンキ君::www
亮人::気を取り直して、『天冥の標』に戻るで。
ゲンキ君::ハイ。
亮人::本書は、小川一水先生のリベラルな考えに基づいた色々な行為のバリエーションは書かれているよ?けっこうエグイのまで書かれているよ?でも全く背景にカルマを感じないから、全く興奮しないんよ。どこかお行儀がよいというか。
ゲンキ君::アンドロイドということで、背景を全く持たないっていう面はあるガルなー。
亮人::最終的にエロの真髄、理想的性交「混爾(マージ)」を求める主人公たちの姿も、上でちょっと言った「愛情あるパートナーとの行為」なんだけど、アンドロイドは妊娠もしないし突き詰めると何の意味があるのか分からなくなっちゃった。
ゲンキ君::本書のエロ描写以外はどうだったガル?
亮人::ラゴスがああいう風になるという重要な部分とか、各陣営の関係とか、《天冥の標》の歴史の軸になる部分はメッチャ面白かったで!!
ゲンキ君::それだけにエロの不満が浮き彫りになったと?
亮人::そうなんよなー。同じハヤカワ文庫の森奈津子先生くらいにゴチャゴチャしてほしかった。
ゲンキ君::モリナツ先生は別枠すぎるでしょw
亮人::では最後に唐突やけど、この感想ブログらしく、謎かけで締めましょか。
ゲンキ君:: (本当に唐突だガル)
亮人::本書で《恋人たち》を取り締まる攻撃をしかけてくる「聖少女警察」とかけまして!
ゲンキ君::「聖少女警察」とかけて?
亮人::「温泉地でつくられた高級魚の干物」ととく!
ゲンキ君::「温泉地の干物」ととく?そのこころは?
亮人::どちらも「よくじょう(欲情/浴場)」で「たいほされる(逮捕される/鯛、干される)」でしょう!!! おあとがよろしいようで!
ゲンキ君::浴場なんてビシャビシャで干せないよー!?もうええわ!!ガルガル!!
★★★☆☆

米澤穂信『米澤穂信と古典部』

米澤穂信と古典部

米澤穂信と古典部

あらすじ
新作短編も収録!人気作家とともに歩んだ《古典部》のすべてがここに!ある日、大日向が地学講義室に持ち込んだのは、鏑矢中学校で配られていた「読書感想の例文」という冊子。盛り上がる一同に、奉太郎は気が気でない――。書き下ろし新作短編「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」の他、古典部メンバー四人の本棚、著者の仕事場や執筆資料も初公開!『氷菓』以来、米澤穂信と一五年間ともに歩み、進化を続けている〈古典部〉シリーズについて「広く深く」網羅した必読の一冊。

古典部を中心に米澤穂信先生の創作姿勢を曝け出したムック本。対談4本は、野性時代に掲載された時に読んだが、まとめて読むのもイイネ。講演会を再構成した創作論作家論は、先生の熱さを垣間見れた。古典部メンバーの本棚は、見てニヤニヤ。古典部新作短篇は、ホータローの意外な創作への情熱に感動。全然「手短に」ではない凝りように感心した!

収録

連城三紀彦『戻り川心中』

戻り川心中 (講談社文庫)

戻り川心中 (講談社文庫)

あらすじ
大正歌壇の寵児・苑田岳葉は二度の心中未遂事件で二人の女を死なせ、情死行のさまを二大傑作歌集に結実させたのち自害する。女たちを死に追いやってまで岳葉が求めたものとは?壮絶な滅びの歌の韻律に秘められた男の野望と道連れにされる女の哀れみを耽美に描きとめた秀作「戻り川心中」(日本推理作家協会賞受賞)他、花にまつわるミステリ四編。

使い魔・ゲンキ君::連城三紀彦の代表的短篇群《花葬》シリーズの作品集『戻り川心中』だガル。
亮人::各短篇に繋がりはないけど、どの話も大正時代の前後を舞台として、さらに花をテーマとしたミステリになってるんやなー。
ゲンキ君::どのお話もホワイダニットのミステリだガルね。ある程度見えてきている話の筋が、ラストで動機が判明するとガラッと反転する、鮮やかな切れ味のホワイダニットだガル。
亮人::どうでもええけど、連城先生の名前って、金田一少年のキャラクタの連城久彦に似てるよね。
ゲンキ君::「異人館村殺人事件」の覆面の人だガルね。
亮人::異人館村は、島田荘司のトリックを丸パクリしたって言われてるし、ミステリと色々因縁あるなー。
ゲンキ君::では各話の感想に行ってみるガル!

  • 藤の香

亮人::代書屋の話。
ゲンキ君::主人公の長屋の隣に住む男は、色街の字の書けない女たちが故郷に送る手紙を代筆することを職業にしてるガル。
亮人::そんな街で、連続殺人が。
ゲンキ君::被害者は、顔を潰されていて身元不明。旅の者っぽいし、連続殺人だけどそれぞれの被害者の繋がりもなさそうだガル。
亮人::しかしそこで代書屋に殺人容疑が。
ゲンキ君::果たして、代書屋がやったのか?それならば、動機は?
亮人::識字率の低かったこの時代ならではの仕掛けで、この動機には唸ったわ。面白かった!
ゲンキ君::全体の切ない空気感も良かったガルな!

  • 桔梗の宿

亮人::女郎宿の話。
ゲンキ君::大金持ちが通り魔に遭って殺され、懐から五百円を奪われる事件が起こるガル。
亮人::どうやら犯人は人形師の男で、女郎宿の娘を身請けするための犯行らしい。
ゲンキ君::しかしその人形師も殺されるんだガル。はたして、なぜ人形師は殺されたのか?
亮人::これは「●●●●●*1」を踏襲したネタやったわけや。「事件が起これば、また会える」っていう。切ない話やけど、この心理はあんまり分からんかなー?今で言う、代理ミュンヒハウゼン症候群ってやつ。力の全くない娘がこうするしかないっていう、時代性もあるんかなー。

  • 桐の棺

亮人::やくざ者の話。
ゲンキ君::主人公は、やくざの貫田に拾われた子分だガル。有能だが無口な貫田の命令で、主人公はなんでも使い走りになる。ある日、貫田は自分の組の親分を殺してくれと命令してくるんだガル。はたして目をかけてくれている親分を殺す動機とは?
亮人::鍵となる親分が大事にしている真っ白な桐の棺や、複雑な男女関係とか、けっこう難しい話やったな。いや動機は分かるんだけど、まどろっこしいなーと。

  • 白蓮の寺

亮人::古寺と母の記憶の話。
ゲンキ君::主人公には、幼い頃のハッキリとしない、でも忘れられない記憶があったガル。それは母親が父親(?)を刺し殺す場面。はたして母は誰をなんの動機で殺していたのだろうか?
亮人::記憶の中の出来事が、一本の線に繋がった時の気持ちよさと、真相の黒さの気持ち悪さ、複雑な気持ちになったわ。ある病気の血脈とか、ミステリ的やよね。
ゲンキ君::翻訳モノだけど『Yの悲劇』も同じ病気の血脈ネタだったガル。

  • 戻り川心中

亮人::「苑田岳葉」という天才歌人の心中の話。
ゲンキ君::御主人、一番気に入ってたガルね!
亮人::はじめはどうしようもない男の話だと思って読んでたら、美しい話やった。
ゲンキ君::天才歌人・岳葉が心中未遂を起こして、その時の思いを歌集にして、さらに数年後に別の女とまた心中未遂を起こして、今度は生き残った数日で歌集を書き上げて即自死を遂げてしまう、という話だガル。謎に満ちた死の動機は果たして何だったのか?
亮人::岳葉がただの女タラシの屑かなと思わせておいて、ラストで真相が反転すると天才創作者の苦悩の末の行動やと分かる。真相が反転したあとの、天才のキリキリとした苦悩を描いて見せた鮮やかさに感動!
ゲンキ君::世に残る天才の傑作とは、こういう物なんだガルねー。
亮人::オレも天才として、このブログを書いてるけど、分かるわー!?
ゲンキ君::御主人は天才というより「凡才」だガルねーw
亮人::そうそうそう。こう伸ばしてるところに針金をかけて、剪定ばさみでチョキンと!ってそれは「盆栽」やー!
ゲンキ君::御主人がスベってるガル。
亮人::だれがスベらしたんやー!盆栽も花のうちということで、このネタも「花葬」して〜!
ゲンキ君::もう早く葬りたいガル。
亮人::なら、閉店ガラガラ!
ゲンキ君::閉店ガルガル!!

収録作

  • 藤の香
  • 桔梗の宿
  • 桐の棺
  • 白蓮の寺
  • 戻り川心中

★★★★★

藤井太洋『公正的戦闘規範』

あらすじ
2024年、上海の日系ゲーム会社に勤める元軍人の趙公正は、春節休暇で故郷の新疆へと帰る途上、思いもかけない“戦場”と遭遇する―近未来中国の対テロ戦争を活写する表題作と、保守と革新に分断されたアメリカを描く「第二内戦」という同一世界観の2篇、デビュー長篇『Gene Mapper』のスピンオフ「コラボレーション」、量子テクノロジーが人類社会を革新する「常夏の夜」など全5篇収録の、変化と未来についての作品集。

亮人::藤井太洋先生の作品集!!
使い魔・ゲンキ君:: フォロワーさん等の評判が良かったから、あわてて数ヶ月遅れで新刊でかったんだったガルな!
亮人::藤井先生は、デビュウから数年で日本SF作家クラブの会長に就任したスゴイ人やな!
ゲンキ君::世界SF大会に出張って、日本のSFを世界に宣伝したり、スゴイ貢献をしてる人でもあるんだガル!
亮人::ソフトウェア開発のエンジニアをしてただけに、ネット技術や最新兵器など現代社会の一歩先を想像するパワーがスゴイねんなー!
ゲンキ君::しかも、どの短篇もラストでその想像力のさらに一歩先へ踏み込む。視点の鋭さに痺れるんだガル!
亮人::決して100%ハッピーエンドじゃないけど、その先も世界は続いていくんやでっていう、物語の姿勢も好感やな!イッキに好きな作家さんになったわ!
ゲンキ君::現代社会を切り取るという鮮度が求められる作風だから、これからもリアルタイムで追っていかないといけない作家さんだガルね!
亮人::それでは各短篇の紹介に行ってみよー!

  • コラボレーション

亮人::「コラボレーション」は、藤井先生の商業誌初登場の作品やね。
ゲンキ君::舞台は、ごく近未来。インターネットの検索エンジンが暴走して、コンピュータが大打撃を受け、インターネットを放棄したっていう設定だガル。インターネットの代わりに、登録認証が必要なトゥルーネットが全世界を覆ってるんだガル。
亮人::匿名での使用ができないんやなー。ほんなら、あんな事やこんな事をネットでできへんやないか!それは困る!
ゲンキ君::ネットを何に使ってるんだガル?!
亮人::えへ!
ゲンキ君::主人公は、破棄放置された古いインターネットに残っている「ゾンビサービス」を一つずつ消していく仕事をしてるんだガル。そこで、かつて自分が作ったサイトを見つけて、そのサイトが今もおかしな動きをしていることを発見したことから、陰謀に巻き込まれていくんだガル!
亮人::インターネットって怖い世界なんやなー。今もインターネットのどこかで知性が生まれかけてたりしてw
ゲンキ君::怖いけど、肯定的に描いてるところが、この作品のいい所だガルね!

  • 常夏の夜

亮人::次は、セブ島が舞台。
ゲンキ君::セブ島で大災害が起きて、その復興の途上が描かれるガル。
亮人::直後の人命救助とかは終わって、さあ産業の復興や避難所の人たちをどないしようかという時期。復興の企画のために、ジャーナリストや学者や他国の軍などがいっぱい集まってきてる。
ゲンキ君::そこで出てくるのが「フリーズ・クランチ法」という量子アルゴリズムだガル。ジャーナリストの文書作成支援ソフトに使えば、執筆の過程で消した文章を並列的に羅列して、あらゆる可能性の文章を見せて、最適を選んだり。ドローンによる救援物資の物流に使えば、あらゆる配送ルートの中から、最適な効率的ルートを選んだり。
亮人::「巡回セールスマン問題」ってやつやね。チェックポイントがちょっと増えただけで、通るルートの可能性が莫大に増えて、普通のコンピュータでは計算できない程になるっていう。
ゲンキ君::その量子アルゴリズムを、軍の無人警備用ロボットに入れたら、大変なことに、暴走しだすんだガル。
亮人::それを止めるために立ち向かう主人公も、量子アルゴリズムを使うんやね。あらゆる可能性を並列的に羅列して最適を挙げさせる事で、未来予測みたいなことをしてしまう。ちょっと初期イーガンのアクションっぽかったな(『宇宙消失』とか?)。かなり好きやった!
ゲンキ君::終わり方も、社会が次のステップに進むみたいなラストで、読み味よかったガル。

  • 公正的戦闘規範

亮人::お次は、中国。
ゲンキ君::東トルキスタンがISを作って、ドローンでテロをしまくる社会だガル。
亮人::これ本当に実現しそうでメッチャ怖いやん。
ゲンキ君::しかもスマホから手軽にできるし、●●●*1に組み込まれて誰が操作してるかも分からない。
亮人::これは完全に『●●●●の●●●*2』やね!
ゲンキ君::ネタバレしないでーw
亮人::まあ無人の兵器って、エレガントではない。ガンダムウイングのトレーズ閣下も言ってはったけど。
ゲンキ君::その言葉をもっと理知的に説明したのがこの作品ってことがガルね!!

  • 第二内戦

亮人::次はアメリカ。
ゲンキ君::全米が銃規制をしようとしたら、南部の州が独立宣言をしてしまう。独立した南部の数州が「アメリカ自由連邦(FSA)」を名乗って、国境には壁を作るわ、銃は撃ちまくるわ、マッチョな白人の国を爆発させるんだガル。
亮人::この作品は『人工知能SFアンソロジー』が初出なんやけど、ちょうどアメリカ大統領選と前後する時期やったねんな。トランプが大統領になったあとの大混乱を、形は違うけど、予期していたような流れ。ホンマおもろい!
ゲンキ君::人工知能の発生というSFネタも面白いんだけど、擬似イベント物としてのストーリーテリングも大いに楽しんだガルね!

  • 軌道の環

亮人::最後は、宇宙が舞台!ホンマに視点を色々持ってはって、藤井先生が恐ろしいわw
ゲンキ君::地球に送るために、木星で資源の採集をしていた作業員が、事故で木星の中に放り出されるところから始まるんだガル。そして、木星から地球への資源運搬船に助けられる。しかしその運搬船に乗っている宇宙イスラム原理主義者たちは、地球圏を壊滅させようという密かな作戦を持っていたんだガル。
亮人::主人公も地球に祈りを捧げる宇宙イスラム教(地球教)の敬謙な信者やけど、地球破壊は止めないといけない。でも地球に搾取され続けるのも困る。そこでとった主人公の行動が……!!
ゲンキ君::SF好きならニヤリとしてしまうガル!
亮人::「●●●●●●*3」は燃えるよね!『●●●ワールド*4』とか!掃除機じゃないよw
ゲンキ君::それを言ったら伏字にした意味がないガルよ!
亮人::とりあえず、藤井太洋は様々な視点から未来を幻視したスゴイ作家ってことやよ!!
ゲンキ君::急にまとめたガル。
亮人::最後に謎かけを一つ!お題は「第二内戦」にかけて、アメリカ分断の時事ネタで。
ゲンキ君::時事ネタとはまた面倒なネタだガル。
亮人::アメリカ分断の象徴「トランプ大統領」とかけて!
ゲンキ君::トランプとかけて?
亮人::「キャッチャーが泊りがけで茶摘みに行く」ととく!
ゲンキ君::キャッチャーが泊まりで茶摘みととく?そのこころは??
亮人::どちらも「ほしゅ(保守/捕手)」が「まいのりてぃ(minority/前乗り、tea)」を「かる(狩る/刈る)」でしょう!!おあとがよろしいようで!!
ゲンキ君::捕手が前日泊してまで茶摘みって!?しかも茶摘みが「teaを刈る」ってwwなんてムリヤリな日本語だガル!
亮人::保守だけに、今日のゲンキ君のほーしゅー(報酬)もゼロでw
ゲンキ君::っていつも報酬なんてくれてないだろ!もうやめさせてもらうわん!ガルガル!!

収録

  • コラボレーション
  • 常夏の夜
  • 公正的戦闘規範
  • 第二内戦
  • 軌道の環

★★★★★

*1:ゲーム

*2:エンダーのゲーム

*3:ダイソン球殻

*4:リングワールド