くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

『警部補・降幡頑三郎』vsシャア・アズナブル編「逆襲しすぎた男」

暗闇の中に正義を照らすスポットライトが当たり、一人の男が浮かび上がる。
「えー、みなさんはニュータイプという言葉をご存知でしょうか?宇宙世紀になって宇宙に進出した人たちの中で新人類に覚醒した人たちのことを言うそうですー」
スポットライトの男、降幡頑三郎は眉間に指を当てながら語り続ける。
「一説によるとニュータイプに覚醒するとテレパシーのようなものが使えて、人々は分かりあえるようになるのだとか」
降幡はカメラに目線を向けて語り続ける。
「人々が分かりあえる。ならば犯罪もなくなるのでしょうかー?そうなれば、われわれ警察の役目も?」

(オープニング曲)
警部補 降幡頑三郎
ゲスト シャア・アズナブル

シャア・アズナブルは疲れていた。
昨年の十二月にシャアは自軍の艦艇を難民用スペースコロニー、スウィート・ウォーターに侵出させて占拠を宣言した。そしてネオ・ジオン総帥としてインタビュー番組内で、地球連邦に対して事実上の宣戦布告も行った。
さらに先日には資源採掘用の小惑星フィフス・ルナを地球連邦軍本部のあるチベットのラサへと落とす作戦も決行した。
そして今日、ネオ・ジオンと地球連邦の和平交渉のためにシャアは総帥としてサイド1のスペースコロニー、ロンデニオンを訪れていた。

和平交渉の会談の三十分前、シャアは少しの間だけ一人になり気分を変えたいと思いロンデニオンの路地裏を歩いていた。
街は閑散としていた。市民たちは、和平交渉の行方を固唾を呑んで待ち、テレビの前で待機しているのだ。道には人通りは全くなかった。
「皮肉なものだな。和平交渉の主役がまだこんな街中にいるというのに」
シャアは独りごちた。
そのとき、和平交渉会談の会場近くのシティ通りの路地の陰から一人の老人が出てきた。
「やあ、赤い彗星さん。来ると思ったよ」
「君は!?なぜここに来た?直接は会わない約束だったではないか」
老人は不敵な笑みを浮かべた。
「それが今月は塩が足りなくてね。今月の分を増やしてもらおうと思って」
「ええい、まだ私を強請ろういうのか?」
「あんたは今や総帥様だろ?金塊の一つや二つ余裕で調達できるだろうに」
「もうこんなことは止めにしてもらおうか?タムラさん」
シャアはあくまで冷静を装って話した。
老人タムラはさらに嫌なニヤつきを浮かべながら言った。
「ならあの事をマスコミにリークしてもいいんだぜ?話題性たっぷりだ。今やニュースの中心の総帥様のスキャンダルだ。世間は食いつくぜ?なぁ『ピンクの彗星』さんよー?」
シャアはその一言を聞いて冷静さを失った。
「私のパーソナルカラーはピンクなどではない!私は赤い彗星だ!!」
シャアは怒りに任せて、いつも持ち歩いていた四角いハンマーのような物でタムラの頭部を一撃した!
(劇的なBGM)
さらに倒れたタムラの上に馬乗りになって何度も打撃を加えた。
「ハァハァ。赤い彗星の名を侮辱することは許さん」
シャアはしばし呆然とした。そして冷静さを取り戻した。目の前には血まみれのタムラが動かぬ姿となっている。なんということをしてしまったのか。しかし犯行を隠さなければ。シャアにはまだ和平交渉という大きな仕事が待っているのである。シャアは頭脳をフル回転させた。

鑑識作業がはじまっている。遺体発見現場はロンデニオン公園の端。ちょうど隣のタムラ焼肉ビルの影になっている場所た。そこに地面に身体を激しく打ち付けた老人が横たわっていた。
そこへ金色の自転車に乗った降幡頑三郎がやってきた。
(登場のBGM)
「んーご苦労さま。被害者は?」
「所持していた名刺にはタムラとあります。どうやら隣のタムラ焼肉ビル焼肉店の経営者タムラ氏と見られます。このタムラ氏、どうやら一年戦争ではあのホワイトベースでコック長をしていたようです」
「あの有名なタムラコック長?」
「そのようです」
「死因は?」
「隣のタムラ焼肉ビルからの転落ですかね?しかしビルの上には何も痕跡はありませんでした。頭部の裂傷が激しく、ただの転落ではない可能性もあるということで司法解剖に回しました」
「というと殺し、か?」
「その線もありますね」
「死亡推定時刻は?」
「午後一時半から二時半ということです。ただ周辺の住民が一時五十分に大きな衝突音のようなものを聞いたらしいです。ですので恐らくその時間が死亡推定時刻かと」
「わかった、ありがとう」

その時、馬に乗った男が人だかりを分けて近づいてきた。
「この騒ぎは何だね?それに道の真ん中に金色の自転車が放置されているのだが?」
そう発した金髪の高貴な雰囲気をまとった男は馬から降りた。
「えー失礼しました。警視庁の降幡です。事件がありましてーご迷惑をかけています。あなたは?」
シャア・アズナブルだ。ネオ・ジオン総帥といえば、お分かりかな?」
「なるほど。あの演説拝見しましたー。見事な立ち居振る舞いでした」
「それはありがとう。それにあなたのあの自転車はなかなか良いカラーリングだ。往年の名モビルスーツ百式を思い出す」
「ありがとうございますー」
「それで事件とは?」
「それがですね。あのタムラ焼肉ビルのタムラ氏が亡くなられました」
「タムラコック長が?」
「ええ。ビルから転落死のようです」
「ならば自殺。事件性はないようだな」
「それがそうとも言えないようで。現場におかしな痕跡がー」
「痕跡?」
「タムラ氏がこれを持っていました」
降幡が取り出したのは塩だった。どうやら食塩のビンようだ。焼肉店の調味用の食塩だろうか?
「この食塩には、おかしなところがあります。この塩は水分が含まれて使い物になりません。よく見ると服も湿っているようですー」
「服のまま水に落ちたのたろうか?転落する前に」
「実におかしい遺体です」
降幡はシャアを眼光鋭く見つめた。
「ところでこの当該の時刻には何をなさっていましたでしょう?」
「私か?私を疑っているのかな?」
「いえいえ、あくまで警察の形式的な質問です」
「フッ、私はご存知の通り二時から和平交渉の席についていたが」
「もちろん存じ上げていますー。ではその前は?」
「スタッフと打ち合わせをしていたよ。ただ一時四十五分ごろから二時までは一人だったな。気分転換のために散歩をしていたんだ。つまり居場所を証言してくれる人がない」
「ほう」
「ただ和平交渉の会場の付近にいてすぐに会場に戻ったがね。会場からこの遺体発見現場までは三十分以上かかる。私には行くことができないよ」
そこで忌泉が口を挟んだ。
赤い彗星なんだから、通常の三倍のスピードで移動したんじゃないのか!」
「うーん忌泉君。それは戦場での話だよ。モビルスーツならまだしも、まさか街中を車で三倍のスピードは出せないだろう」
降幡は忌泉の広いおでこを叩いた。
「どうやらそのようだ。私には犯行はできんよ」
シャアはホッとしたような表情を見せた。
「それでは私はこのあたりで失礼しよう。降幡刑事、捜査がんばってくれたまえ。捜査の栄光を、君に!」
シャアは再び愛馬に跨って走り去った。そのシャアの後ろ姿を見送る降幡の眼は怪しげに光っていた。
「それより降幡さん!見て下さいよ、このチラシ。もうすぐこのへんに小料理屋がオープンするみたいですよ。行ってみましょうよ」
忌泉はチラシを広げて見せた。
「油を売ってないで仕事をしなさい」
降幡は忌泉のおでこを一閃し、遺体発見現場に戻っていった。

「降幡さん!タムラ氏の死因が分かりました」
部下の差異園寺が勢いよく入室してきた。降幡は今ネオ・ジオンの旗艦レウルーラの控室にいる。
「それで死因は?」
「やはり鈍器で頭部を殴られたことが直接の死因のようです。四角いハンマーのような物で何度も殴られたというのが司法解剖の結果です」
「四角いハンマー?」
「ハンマーのような形ですが、まだ物の特定には至っていないようです」
降幡は顎に手を当て考え込んだ。
そこにノーマルスーツ姿のシャアが通りかかった。
「降幡刑事!?どうしてこんなところで?ここは我が艦レウルーラだが?」
「例のタムラ氏の殺害事件の捜査で。ちょうどいいところでお会いできましたー、少しお話うかがえますでしょうか?」
「今からアクシズ落としの作戦が始まるのだが!?まさかこんな戦場でも捜査とは」
「それが刑事というものですー」
「ならば十分だけ」
「ありがとうございます」
シャアは無重力の控室で天井の取っ手に捕まり話を聞く体勢になった。
「タムラ氏の焼肉店、かなり資金繰りが悪かったようですー」
「ほう」
「しかし資金がショートしそうになるたびに、タムラ氏はどこかから金塊を調達してくるそうです」
「それは元地球連邦軍の料理長なのだからコネクションもあったのだろう」
「そこなんです!あなたはなぜ街の焼肉店のオーナーであるタムラ氏が元ホワイトベースのタムラ料理長と知っているのですか?遺体も見ていないあなたが街の焼肉店のオーナーの顔と素性にやけに詳しいのは?」
「そ、それは」
シャアは背中に一筋の冷たい汗が流れるのを感じた。
「ええい!あなたは私を疑っているのか?私はネオ・ジオン総帥のシャア・アズナブルだよ。それ以上でも、それ以下でもない」
シャアは震える声で答えた。
「もう作戦開始の時刻だ。それでは失礼させてもらうよ」
シャアはノーマルスーツのメットを被りながらサザビーの格納デッキへ向かった。
降幡はその後ろ姿を見送りながら疑惑の目を光らせていた。
「差異園寺君、頼みたいことが。アズナブル氏の学生時代のデータを当たってくれるかな?急いで」
降幡は指示を飛ばし、壁際のポスターに目をやった。そこにはロンデニオンの小料理店のポスターが貼られていた。

シャアの戦いは激戦を極めた。アクシズ落としは失敗に終わった。だが半分に割れたアクシズの片方は地球に向かって進んでいた。シャアとアムロの戦いも決着に向かっていた。シャアのサザビーアムロνガンダムは互いに半壊するほどに激闘を続け、最終的にはアムロが勝った。νガンダムはシャアの乗った脱出ポッドを片手に掴んだまま、地球に落ちようとしているアクシズの片割れを止めようとしていた。
降幡は一連の戦況をモニターで確認しながら、頭の中では推理を続けていた。
そのとき、モニターからシャアらの声が聞こえてきた。
「私の勝ちだな。いま計算してみたがアクシズの後部は地球の引力に引かれて落ちる。貴様等の頑張り過ぎだ!」「ふざけるな! たかが石ころ一つ、ガンダムで押し出してやる!」
降幡はそれを聞いて推理の糸口を見つけた気がした。
「計算……」
そこに差異園寺が飛び込んできた。
「シャアの学生時代のデータがありました。国防軍士官学校ではトップの成績だったようです。もちろん宇宙物理学も」
「差異園寺君、ありがとう」
差異園寺の方に目線を向けた降幡は、差異園寺の後ろの壁のポスターが目に入った。「小料理店」
降幡は全てが繋がった気がした。小声で推理を詰めていく。
「宇宙物理学……計算……小料理……」
降幡の目は確信に光った。
「差異園寺君!今すぐにアズナブル氏のところへ行く手段を用意して!」
「はい!」差異園寺は急いで退室しようとする。

その瞬間、時が止まり降幡の周りが暗転する。暗闇の中に正義を照らすスポットライトが当たり、降幡が浮かび上がる。
「えー今回も難しい事件でしたー」
アクシズ落としという地球連邦への反乱の最中のトップによる個人的殺人事件。私には反乱の是非を裁く権利はありません。しかし殺人事件を解決に導くのが私の仕事ですー」  
降幡はスポットライトの中、斜めに構えていた姿勢を正面に変えた。
「今回の事件。シャア・アズナブル氏は、自由な時間が十五分なのに片道三十分の現場で殺人を行った。それはどのように行われたのか?そして凶器は何なのか?」
降幡はカメラに目線を向ける。
「ヒントは……『小料理の力』。降幡頑三郎でした」(デデデデーン)

「そうか……!しかしこの暖かさをもった人間が地球さえ破壊するんだ!それを分かるんだよ、アムロ!」
「分かってるよ!だから世界に人の心の光を見みせなけりゃならないんだろ!」
「ふん、そういう男にしてはクェスに冷たかったな……えっ!」
「俺はマシーンじゃない!クェスの父親代わりなど出来ない!……だからか?貴様はクェスをマシーンとして扱って……」
「……そうか?クェスは父親を求めていたのか。それで、それを私は迷惑に感じて、クェスをマシーンにしたんだな」
「貴様ほどの男が、なんて器量の小さい!」
ララァ・スンは、私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!そのララァを殺したお前に言えたことか!」
「お母さん?ララァが?……うわっ!」

地球に落ちる寸前のアクシズ。それをモビルスーツで押すアムロνガンダムνガンダムの手にはシャアの脱出ポッド。通信でアムロとシャアはお互いの理屈をぶつけ続ける。そして、アムロとシャアさらにアクシズは緑の光に包まれ、アクシズは軌道を変えはじめる。

脱出ポッドの中でシャアは頭を抱えて今までを振り返っていた。そこに突然、脱出ポッドの扉が開いたのを見た。
「失礼しますー」
降幡が脱出ポッドに入ってきたのだ。
「なぜここに?!降幡刑事!」
「えーあなたと話すために無理を言って入れてもらいましたー」
「ええい。なんという無茶を。ここは戦場だぞ?!」
「存じております。しかし私はここに来なければならなかった。タムラ氏殺害の犯人を捕まえるために。んータムラ氏殺害の犯人、それはズバリ……あなたです!シャア・アズナブルさん」
「?!」
シャアは驚愕の表情で降幡を見つめた。
「……そんなはずはない!私はあのとき、ロンデニオンの和平交渉の会場にいた!周辺で一人でいたのは十五分ほどだ!片道三十分の事件現場に行けるはずがないのだよ!」
「それが方法みつけましたー」
「!?」
「あのときタムラ氏の持っていた塩は完全に湿気っていました。タムラ氏の服も濡れていた。不思議です。これらはどこで濡れたのか?……それは空です。雲の中を通ったんです。タムラ氏の遺体はビルからの転落を偽装させられたのではなく、空から落ちてきたんです!」
「ッ!?」
「あなたは事件現場のタムラ焼肉ビルには行っていません。和平交渉会場にいました。その和平交渉会場の近くでタムラ氏を殺害しました。そしてそのあと、遺体をタムラ焼肉ビルに向かって投げたんです!」
「遺体を投げただと?!はたして投げただけでそんなに転落死したように見えるものかな?」
「ええ、できるんです。あの場所はロンデニオン、つまりスペースコロニーです。スペースコロニー内で上に物を投げれば空の向こうはまた地面です。モビルスーツで投げれば、どんなに遠くても一瞬で向こうの地面に転落させられます」
「そんな芸当が」
「しかしここで問題がー。スペースコロニーの中では、小料理……いえ『コリオリの力』が働きます」
「こりおり……」
「そうです。スペースコロニーのような巨大な回転している物体の中で物を投げると、中の人から見ると見かけ上まっすぐに物は飛ばない。コリオリの力に歪められて飛んでいきます。複雑な軌道をとることになる。その軌道を予測するには複雑な計算が必要となります」
「!?」
「ところでアズナブルさん、あなたは先程『いま計算してみたがアクシズは地球に落ちる』と発言されていましたね?すごい計算能力です。あなたは士官学校時代も宇宙物理学などを優秀な成績を修めておられる。もちろん複雑な軌道を計算することもできる。つまりタムラ氏の遺体を計算どおりの場所に転落させることもできる!」
「ええい!そんなバカな!たしかに私は優秀だ。計算もできる。だが状況証拠にすぎん!他に犯行ができる人物がいた可能性も排除できんだろう!」
「たしかにそのとおり。状況証拠より物的証拠ですー」
降幡はおもむろにシャアの座っている操縦席に乗り出した。そして操縦桿の横にある装置のようなものを引き抜いた。
それはTの形をした構造材。サイコフレームだった。側面には血痕がべっとりと付いている。
「やはり。凶器のハンマーのような物。それはサイコフレームでしたかー。あなたは、このT型のサイコフレームと同じ物をアムロ氏にも贈りましたー。つまりおそろいです。おそろいが嬉しかったあなたは、肌見離さず持ち歩き、そしてあのとき思わずこのサイコフレームでタムラ氏を撲殺してしまった。しかし念願のアムロ氏とのおそろいサイコフレーム。だから凶器を処分することができなかった」
「もはや……これまでか……」
シャアはうなだれたまま動けない。

「どうしてタムラ氏に脅されていたのか、お聞かせ願いますか?」
「ああいいだろう」
シャアは静かに語りだした。
「あれは一年戦争の最中だった。私はあの日、ホワイトベースに潜入する任務に就いていた。無事にホワイトベースに潜入し、艦内を調べていた。そのとき、見つけたのだよ!アルテイシアの部屋を!」
アルテイシアさん。ホワイトベース内での呼び名はたしかセイラ・マス。つまりアズナブルさんの妹ですね」
シャアは首肯した。
「そうだ。アルテイシアアルテイシアの部屋となれば入るしかあるまい。そして私はある物を探してベッドを調べ回った」
「ベッド?妹の?なぜです?」
「私は『お守り』が欲しかったのだ!アムロアルテイシアからもらったという『お守り』がな!」
「……!?えー……それは、いわゆる『セイラさんのお守り』というやつでしょうかー?」
「そうだ!私もアムロに負けるわけにはいかんからな」
降幡は困惑した。
「……お守り。古くからある弾除けのおまじないで、古代のサムライや近代の飛行機乗りも懐に忍ばせていたという。女性はタマがないので弾に当たらなくなるという、弾除けのまじない。つまりあなたがベッドで探していた物は……恥毛」
「妹の?恥毛と?……うわっ!」
アムロの叫声がスピーカーから聞こえてくる。
「うーん、しかしアムロ氏が『セイラさんのお守り』をもらったというのは小説版での話ですー。小説版にはたしかに恥毛(原文ママ)と書かれています。しかし小説は富野由悠季氏の二次創作。史実ではありませんー」
「ええい」
シャアが忌まわしい記憶を振り払うように頭を振る。
降幡は言葉を続ける。
「そこをタムラ氏に見られていた。そしてそれをネタに金塊を脅され続けていた。ついにはそれに耐えかねて殺害に至ったということですね?」
「そうだ。だが仕方がなかったのだ!地球連邦を粛清するための、大事の前の小事だったのだ」
降幡は目に怒りをたたえて立ち上がった。
「殺人に大事も小事もありません!ましてや個人的な殺人に!それを大義と混同させるとは」
降幡の平手がシャアに飛んだ。
シャアは叩かれた頬に自分の手を当てた。
「やはり認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものは。だが認めなくてはならん時が来たようだ」
シャアの目から輝きが流れた。
降幡に優しさをたたえた声が戻り、そして言った。
「行きましょう」
うなだれたシャアは降幡に促され立ち上がった。スピーカーからは、あの音楽が流れている。
降幡とシャアそしてアムロは、サイコフレームの緑の光の中に消えていった。

―fin―