くじら座タウ星府立大学SF研究会

主に読書(SF中心)について書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。

光瀬龍『消えた神の顔』

消えた神の顔 (ハヤカワ文庫 JA 115)

消えた神の顔 (ハヤカワ文庫 JA 115)

あらすじ
突如現れた巨大な怪物の前に、エルサレムは一瞬のうちに火の海と化した。燃えさかる炎の中でしだいに明らかにされる恐るべき姿。それは、破壊と死を掌管する異形の神であった!恐れおののく人々にナザレの男は新たなる信仰を説いてまわるが……。聖骸布の謎を軸にキリスト教信仰の意外な発生過程を描く表題作ほか、武田信玄のもとから奪われようとする古今集を追って、時間局員笙子が戦国時代へと飛ぶ「飛加藤を斬れ!」異星人が音楽にのせて強制的な意思伝達をする恐怖を描く「ボレロ1991」など、光瀬SFの軌跡を精選収録して贈る傑作集!

大好きな光瀬龍の作品集。しかし近未来&現代モノを中心に古びている感は否めないと感じた。酸性雨とか機械に管理された子供とか、今の目から見ると完全に賞味期限切れの感が…。一方で時代SFは面白い!キリストの聖骸布のとんでもない正体や、忠臣蔵を予言する謎の八卦など、時代小説とSFが見事に融合している!ただ第一の目的だった、光瀬作品で大好きなタイムパトロールものシリーズである、時間局員・笙子が主人公の「飛加藤を斬れ!」は、肩透かしだった。歴史ウンチクが今の時代だとネットで出てくるエピソードばっかりだし、SFとしても取って付けたよう。残念。

アトランティス滅亡の最後の一日を描いた短篇。伝説の王国、超古代文明の核戦争、というモチーフは想像を掻き立てて楽しい。

  • 飛加藤を斬れ!―笙子夜話―

光瀬龍お馴染みタイムパトロールのシリーズ。戦国時代に上杉や武田の配下だった忍び、加藤段蔵(=飛加藤)を中心にすえている。飛加藤のエピソードが面白いんだが、今ならネットで簡単に出てくる知識ばっかりで古びた感は否めない。

  • 二十年前、新宿で

現代の新宿での古物を預けたロッカーにまつわる不思議な話。匈奴の呼韓邪単于を絡めてくるあたり、珍しくて面白い。作者本人が体験する不思議な話という形式も、この世代の作品っぽくていい。

歌劇「ボレロ一九九一」の世界的大ヒットと謎の奇病の蔓延。ネタ自体は古びているが、パニックものとしてはなかなか面白い。(追記:いま巻末あらすじを見てみたら、音楽を蔓延させたのは異星人だと書いてある!?そんなこと本文に書いてたか?オレの見落とし?)

  • それでは次の問題

管理された未来の教育を描いた小品。当時から見たユートピア(=ディストピア)の未来って感覚が面白い。時代を勘案したら面白いってだけで、ネタ自体は古いけどね。

  • 錆びた雨

思いっきり古びている。近未来が公害と酸性雨によって荒廃しているという設定からして、時代だなーという感想しかない。校内暴力がエスカレートしているだろうという未来予測も今となっては的外れの感。

  • 人は情によって死ぬ

ワンアイデアショートショート(以下、SS)。アイデアはおもしろい。けど、この重厚なタイトルから想像できるほどの、深さは全くないw通勤ラッシュとこのオチのネタを混ぜるという発想は面白いけど。

  • それは元禄十五年か、それとも十六年か

現代モノや近未来モノは古びているが、時代SFは面白い!江戸時代、絶対に当たるという八卦(占い)の調査にからむ陰謀譚。調査のための屋敷への潜入の描写も手に汗握るし、時間SFのオチも切れてて楽しい!

  • 同業者

未来の暗殺者を描くSS。緊迫感もあり、SFネタも冴えているけど、最後にこの人を暗殺した理由がイマイチ理解できなかった。

  • 天の空舟忌記(あまのうつろぶねいみき)

有名な江戸時代の絵「虚舟」。まるでUFOのようなものが大洗のあたりに漂着したと記されている。これを江戸時代の人々の目線から書いたSF。虚舟の正体もそのとおりだけど、書き方が丁寧でおもしろい!

  • 不良品

関ヶ原ロンメル元帥のアフリカ戦線。どちらにも歴史とは違う異様な異物が紛れ込むというSS。歴史の描写はやっぱり熱がこもっていて良い。

  • 乗客

ホラーSS。事故多発のバス。倉庫にしまわれていたが、業務が逼迫して使用することに。はたして何がおこるのか?

  • いまひとたびの

和泉式部を主人公にしたSS。百人一首にも選ばれている有名な歌を、SF的に解釈しなおしているのが楽しい。

  • 私のUFO

唐突にエッセイ2本。「私のUFO」と「ドウリットル大佐は、何を連れてきたのか?」。どちらも、光瀬先生自身が目撃した有り得ない出来事を軸に、UFOや太平洋戦争時の軍用機など、ウンチクをちりばめているのが楽しい。

  • 消えた神の顔

ナザレのイエス磔刑にされる過程から、聖骸布の行方までを描く。キリスト教の発生過程をSF的な発想とミックスするあたり、光瀬先生の面目躍如。異形のキリストは、世界中のSF作家でも光瀬先生しか書けないだろうと思う。
★★★☆☆