ラリイ・ニーヴン『太陽系辺境空域』

太陽系辺境空域 (ハヤカワ文庫 SF 348 ノウンスペース・シリーズ)

あらすじ
海王星の軌道の外、太陽系辺境空域にあいついでおこる宇宙船消失事件。貨物船が、軍用艦がいずこともなく姿を消す。はたして海賊のしわざか？これを冒険好きの連中が見すてておくわけがない。かくして一隻の宇宙船が太陽系辺境空域をめざし、まっしぐらに進んでいく……最新の科学情報と独特の軽妙な語りくちで、宇宙航行をスリリングに描いた表題作をはじめ、金星上空で立往生してしまうサイボーグ宇宙船の頭脳と乗組員のやりとりを描く「地獄で立往生」など、ノウンスペース(既知宇宙)を舞台に、多彩な登場人物、種々な宇宙船がくりひろげるさまざまなエピソード。

ニーヴンの未来史《ノウンスペース》の短篇集。太陽系惑星の探査の時代から、太陽系外の異星人との接触まで、時代の進展が楽しい。宇宙の冷たさを体感できる「待ちぼうけ」アナーキズムの瑕疵を書いた「無政府公園にて」現代人なら誰でも知っているあのゲームの偉大さを描いた「安全欠陥車」などがお気に入り。

• いちばん寒い場所

水星が舞台。執筆当時は水星は自転していないと考えられてて、永久に夜の部分が「いちばん寒い場所」と。そこで生命の痕跡を追うという小品。でもその地球外惑星生命というSFネタよりも、宇宙船の設定が魅力的だった。

• 地獄で立往生

『無常の月』にも載ってたので既読。金星で宇宙船が謎のトラブルして立往生する話。主人公と宇宙船は、一篇目と共通の。宇宙船の制御を人間の脳を移植して任せているという設定と、それに起因する立往生トラブルが面白い。

• 待ちぼうけ

『無常の月』にも収録されており既読。冥王星有人探査で事故がおき、冥王星の地表で進退窮まる。自殺と変わらぬ覚悟で、極寒環境で冷凍睡眠的になればと宇宙服を脱いだ時に起こる事態に驚き。この発想はコワイ。

• 平行進化

火星有人探査で、火星人の文明の遺物を発見。ダイヤより硬い、井戸のようなモニュメントのような。推理しながら読んだが、なかなか面白い答えだった。地球人と全く違う生態でも、似た文化の可能性がある「平行進化」の考えが面白い。

• 英雄(ヒーロー)たちの死

時代は進んで火星に植民しはじめた時代。バブル状の空間で15人ほど植民。みんな男。一人がホモ化して、迫られた男はホモを殺してしまう。バギーでバブルを突き破って逃走。人間ドラマだけでSF的ネタがない。正直、あんまりw

• ジグソー・マン

臓器銀行の話。未来では、希望した死者や死刑囚の臓器を保存して、病気の人に使うという制度が確立。しかし陪審制で軽微な犯罪でも死刑宣告し自分たちの臓器銀行を充実させようという動きが。未来社会の制度上の瑕疵、興味深い。

• 穴の底の記録

密輸人のロケットが、間違いで火星に不時着。五篇目の話の何十年後かの火星。あの話の、基地の廃墟で『火星の人』的サバイバル。しかし火星人の行動がブキミで意味不明で怖い。

• 詐欺計画罪

全てがロボットによる全自動になる社会。初のロボットレストラン。しかし暴走。延々と同じ料理を出し続け、会計を許さないので店の出口もロックされ出られない。シュリンプカクテルがひたすらテーブルに並ぶ姿は、もはやコメディw

• 無政府公園(アナーキー・パーク)にて

暴力行為以外のどんな行為も許される特別区・無政府公園。暴力行為だけは、空飛ぶボールメカによる電撃で両成敗。真の無政府状態を目指し全部のメカ停止が実行された時、どんな混沌が起こるのか。アナーキズムの欺瞞を突いた佳作。

• 戦士たち

地球人類と異星種族クジン族とのファーストコンタクト。地球人が争いを根絶した完全平和種族、異星人が戦闘的で、戦争状態になるという設定が普通とは逆で面白い。たいてい地球人は、争いを止められないって性格に書くのが多い気がする。

• 太陽系(ソル)辺境空域

太陽系周辺で起こる宇宙船消失事件。それにツングースカ大爆発をからめてくるとは、光瀬龍の『たそがれに還る』を思い起こさせる。しかし、光瀬が哲学的な宇宙の無常観を描いてたのに対して、こちらは実際的なスペオペ的なオチ。

• 退き潮

大昔の宇宙を支配していた超種族ののこした遺産を巡って、異星人と争うという胸躍る展開。遺産の正体も、ハードSF的で面白い。庄司卓の『宇宙戦艦ヤマモトヨーコ』に影響を与えたのかなーというアイデアが散見されるのが個人的に嬉しい。

• 安全欠陥車

異星で巨鳥に車ごと飲み込まれる。巨鳥は死んでしまうが、車は出られない。巨鳥の死体が腐敗し出れるようになるまでの半年、ライフラインはあるが時間を待たなければいけない。ウインドウズPCを使ったことがある者なら誰でも知っている、あのカードゲームの偉大さが見事に分かる掌編。
★★★★☆