くじら座タウ星府立大学SF研究会

主に読書(SF中心)について書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。

林譲治『ウロボロスの波動』

ウロボロスの波動 (ハヤカワ文庫 JA)

ウロボロスの波動 (ハヤカワ文庫 JA)

あらすじ
西暦2100年、太陽系外縁でブラックホールが発見された。その軌道を改変、周囲に人工降着円盤を建設し、全太陽系を網羅するエネルギー転送システムを確立する―この1世紀におよぶ巨大プロジェクトのためAADDが創設されたが、その社会構造と価値観の相違は地球との間に深刻な対立を生もうとしていた…。火星、エウロパ、チタニア―変貌する太陽系社会を背景に、星ぼしと人間たちのドラマを活写する連作短篇集。

AADDシリーズ第一巻。2100年に太陽系に接近中のマイクロブラックホール「カーリー」が発見され、人類はそれを天王星衛星軌道に移動させ人口降着円盤を建設しエネルギーを取り出す人工降着円盤開発事業団(AADD)を設立する。取り出したエネルギーをマイクロ波で送り出し全太陽系に活用すると同時に、火星のテラフォーミングなども手がけるようになる。しかしAADDの独自性から地球と対立し紛争の火種となってゆく。…という宇宙年代記の連作短篇集。
全篇ミステリ仕立ての構成を採っており、読ませる。そしてそのミステリの謎と密接に関わってくるSF舞台設定(小惑星、火星のメタンハイドレート氷穴、エウロパの海、我々の銀河のお隣の矮小銀河、天王星の衛星チタニアなど)も知的好奇心をそそる。
またAADDの特殊な組織論も興味深い。AADDの人間はコンピュータから通信デバイスまで何でもつかえる装置(ウエッブ)を脳内に埋めており、それを使って効率的かつ有機的な組織を作っている。それに対し、地球はウエッブに拒否反応を持っており、それが紛争の火種にもつながっていくのだが。なにせ今までの人類とは全く違う行動原理のAADDの人間が興味深い。
また、太陽系外の知的生命体の兆候らしきものも伏線として各所にちりばめられており、続巻が楽しみになってくる。
追記:巻末解説で小川一水先生が書きたいところの違いについて喝破されているが、アクションシーンもSF的描写も大胆に削っているところがあるのも興味深い。とくにブラックホールの移動方法やエネルギーの取り出し方など、プロジェクトX的に書けばそれだけでSF長篇が書けそうなのに、もったいない気がする笑

★★★★★