久米康之「猫の交差点」
猫より美しい女はいない。写真家、竹原純三の信念だ。彼の車のボンネットで仔猫が居眠りしていても追い払うことはしない。「ガロン、いらっしゃい」清楚が女性は子猫を抱き上げると、ゆっくり子猫のひげを引っ張った。逃げていく子猫。「どうしてもガロンを見つけないといけないんです」彼女は行方不明になった猫型の小型核融合炉内蔵ロボットを探しているという。今の時代の人に見つかると帰るべき未来がなくなってしまう時の交差点。二人の猫探しがはじまる。
『猫の尻尾も借りてきて』の「久米康之」で検索をかけたら、『猫の尻尾』以外にも著作があることが判明!!!早速図書館で取り寄せてもらいました。なんと府立図書館にも蔵書していないとのことで、泉南市立図書館から来たみたい。上はその短篇のあらすじを見つけたので勝手に引用。これも時間モノなんだけど、タイムパラドックスがメインネタではなくって、正しい歴史と女性への愛との間での葛藤がメインで、うーん切ない。やっぱり時間SFはロマンチックで切ない男心を書いたやつが良いよね。
最後に柴野拓美さんのこの作品に対する解説を引用する。
タイム・パラドックスと、スター誕生と、そして、ほのかな愛。それらの要素がみごとに織りなされて生まれた一個の物語。この架空世界の甘い陶酔がすなおに味わえるのは、SF読みの特権かもしれない……。
久米氏はこの短篇で力量を認められ、やはりタイム・パラドックスをアイデアの中心に据えた緻密なミステリ・タッチの長篇『猫の尻尾も借りてきて』(朝日ソノラマ)でデビューを果たしたが、それきりまだ後続が出ていない。こうした作風に必要なバランス感覚を長篇で保持することのむずかしさはよくわかるが、もしこの作家の完璧主義が裏目に出ているようだったら、これは考えものだろう。一度、SF性や物語性にこだわらず、八方破れの姿勢で書きとばしてみることが、あるいはプラスになるのではないだろうか。このまま埋もれさせておくにはあまりにも惜しい才能である。
★★★★★