くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

汽水域観測船・編『時間百合SFアンソロジー』


時間百合SFアンソロジー
作者:アンソロジー
出版社/メーカー:汽水域観測船
発売日:2022/09/25
メディア:文庫判(A6)

時がふたりを分かつまで。あるいは、ふたりが時を分かつまで――

時間にまつわる広義のSFを扱った百合アンソロジー
時間は等しく誰にでも流れるものでありながら、それがもたらす影響は人・関係によってさまざまです。
そんな時間という概念から再考することで、百合が持つ多様な可能性を拡張するような作品、あるいは、「時間」がその関係に深く影響を与え、これまでの時間という概念にとらわれることなく展開される物語が集まりました。

【参加者一覧(五十音順)】

  • 小説

青島もうじき @Aojima__
  『異常論文』(ハヤカワ文庫JA)短編収録
阿部屠龍 @abe_dragonslay
いかずち木の実 @223thunder
  第2回百合文芸小説コンテスト・ガガガ文庫賞受賞
伊島糸雨@shiu_itoh
  第64回阿刀田高のTO-BE小説工房 選外佳作
  第3回百合文芸小説コンテスト pixiv賞
  BFC3準決勝進出。
  文芸サークル「磔刑」所属
犬井作 @miduki_neko
  カクヨムWeb小説短編賞2020 佳作「ホンモノの味」
紅坂紫 @YukariKousaka
  零合舎所属作家・編集者
益岡和朗 @ayumu_KM
  古書店発の文芸同人誌《ますく堂なまけもの叢書》発行人
緑わかめゼリー @greenwakamejell

  • 装画・デザイン

昏omeme @nnnnnnnnkon

  • 編集

汽水域観測船(青島もうじき/丸井零)

9/25の文フリ大阪でgetした本!百合文芸小説コンテスト受賞者や『異常論文』掲載者による百合&時間SFのアンソロジー。ほんまにいいアンソロジーだった!時間SFとしても様々なバリエーションで高クオリティな作品の連続だったし、百合SFとしても関係性が色々あって面白かった!これほんま商業出版でもなんの不思議もないクオリティ!全作品素晴らしかった!

  • 緑わかめゼリー「亡き王妃のためのクチュール」

被服専攻のデザイナー志望の学生。集大成のドレス制作に悩む。そんなとき夢に昔のフランス人ドレス作家みたいな人が何度も現れる。亡き高貴な方へのドレスを作っているよう。果たして誰のためのドレスなのか?このドレスの描写が凄まじい。多次元宇宙の衝突と超弦を織り込んだドレス。SFの想像力の限界に挑んでるような描写でスゴイ!ここまで亡き王妃を想うパワーの凄まじさよ。主人公の進む道も険しそうだが先を見据えられて良い終わり方!1編目からクオリティ高いSFで良かった!(この「亡き王妃」は知ってたけど、ドレス作家のほうも歴史上の有名な人なのね。すごい細かな下調べの上での作品。すごい)

  • 伊島糸雨「時の鹿冠」

ただの中華風ファンタジーと思って読んでたら、凄まじい話だった。幼い時から姉妹同然に暮らしてきた二人。しかしすれ違い。そんなとき禁忌の地で、半神半獣の時を司る鹿神に出会う。そこからは急転直下。時間SFとして、想い人を救うため覚悟の行動。まるで円環の理!?神って人知を超えた存在やけど、ほんまここまで過酷なラストになるか。タイムリープを繰り返す系の話は数あれど着地点ここになるか〜。胸が痛い。それだけ想いが強かったってことやけど。ほんまに凄まじい時間SFを久々に読めた満足感だった!

  • 阿部屠龍「n回目のエピローグ」

2018年6月18日という一日を延々と繰り返すという時間ループ。シンプルなネタの時間SFかと思いきや、かなりシミュレーションされていてスゴイ!30万回以上も同じ一日を繰り返しているとなると、どういう行動をするのか。同じ現象になってる人を見つけようとしたり、自分がどこまでできるかタスクを課してみたり。こういう行動になるよな。そして見つけた同じ現象の女子高生同士。この現象について認識論で説明しようとする。非常に刺激的な議論。ここまで深くまで現象を考察しないとやなと感激!いい時間SFだ!

  • 益岡和朗「最強おばあさん養成所」

勇者ヒーロー魔法少女などを導く「師匠」を輩出するための組織「最強おばあさん養成所」。そのトップである小野小町。なんてブッ飛んだ設定!よくこの発想が出てきたと感動!この勢いが面白い!しかし小野小町については丁寧に調べて、そこで出てきた新説を1000年続く百合SFに仕立てる。この手腕、すごい。ここでしか読めないストーリーで、こういうのがイイネ!

  • いかずち木の実「一人称過去未来現在形」

コレコレ〜!コレぞ時間SF!コレ系の時間SFは、某翻訳SF短編でもあるけど、まさか百合と結びつくとはね!しかもコレ系の時間SFは倫理に抵触するネタを含んでしまいがちなのに、そこをあえて得意分野おねロリで行き切るとは!さすが暗黒おねロリが得意分野な作者さん!ダークな後味!百合としても時間SFとしても大満足!時間百合SFの中心となる作品やね!

  • 犬井作「完全なる牢獄(せかい)のなかで」

や〜これはスゴイ!がっつりハードSF!読み応え満点イイ!未来から過去への8127通のメールでの警告。中国領コロンボ(スリランカ)でのポリティカルアクションな背景もありつつ、量子加速器研究施設にエージェントが潜入。施設ではこの宇宙を循環宇宙に付け替えようという企みが。よくぞここまでの硬質な設定を一本の短編にまとめてくれた!スゴイ!そして百合兼バディもの(変則的)としても楽しかったし!高クオリティな作品がそろうアンソロジーの中で一番好きなSFかもしれん!

深海探査。しかし各国どこもその事業から撤退。最後の航海の海溝探査。探査船に乗る二人。
マリンスノーは等速で深海を下へ下へ進んでいく。つまり時間と位置が等価。そして深海では相対論的に時間がゆっくり進む。新しい時間についての視点が色々でてきて、こういうのも時間SFの一つの形やな〜と感心!今後人類未踏の地となる深海に別れの花束のように残すバラスト、絵になるラストがほんまに美しく印象的。いい短編や!

  • 紅坂紫「個展beloved:速川星来」

写真家・速川星来の個展。連作作品に目が止まったことから本人と話すことに。速川星来は、時を飛ぶことができる一族で、過去へ旅しての叔母との交流が語られる。静かな語り口で叔母との出会いと、一族の特徴について語られて、独特の雰囲気。どんどん惹き込まれる。叔母の晩年は、意識だけで時を飛んでるのか、最老境の症状なのか、どちらか曖昧で色々老境とは何かと考えてしまう。末尾にこんな印象的な作品を置くとは、いい構成のいいアンソロジーでした!