あらすじ
歴史は変えられる――物語ならば。色とりどりの“if”の世界に飛び込む、珠玉のSFアンソロジー。
★収録作品★
- 石川宗生「うたう蜘蛛」
死ぬまで踊り続ける奇病が蔓延したイタリア。
頭を抱える総督の前に、「この流行り病を収束させてみせましょう」と嘯く錬金術師が現れる。テオフラトゥス・フォン・ホーエンハイムと名乗るその男が披露したのは、奇天烈な治療法だった。
- 宮内悠介「パニック――一九六五年のSNS」
一九六五年の日本。そこには「ピーガー」というSNSが存在した。
ベトナム戦争の取材で一時行方不明となった作家・開高健。帰国した彼を待ち受けていたのは、「ジコセキニン」という非難の嵐。世界初の炎上事件の謎を紐解いた先に待っていた真実とは。
- 斜線堂有紀「一一六二年のlovin' life」
和歌を“詠訳”する平安時代。
“詠語”ができないけれど詠む歌は一級品の歌人・式子内親王の前に現れた一人の女房によって、世界が一変する。
- 小川一水「大江戸石廓突破仕留(おおえどいしのくるわをつきやぶりしとめる)」
南北四里、丈百尺、厚さは二間。その江戸には巨大な石壁「大廓」が横たわっていた。
一体、その石壁は“何”から江戸を守っているのか――? 明暦三年一月。燃え上がるあの日の真実が紐解かれる。
- 伴名 練 「二〇〇〇一周目のジャンヌ」
一四三一年五月三十日、フランスの英雄ジャンヌ・ダルクは今まさに火刑に処されたーーはずだった。
しかし目を覚ますと、処刑の朝に時間が巻き戻る。彼女にもたらされた「奇跡」の正体と代償とは。
「改変歴史SFアンソロジー」ということで大好物のジャンルだったけど、大満足!全作傑作で全作大興奮!講談社タイガからSFが出るのは珍しいが、今後も続いてほしい!
- 石川宗生「うたう蜘蛛」
ナポリで黒死病の次にまた奇病が襲う。人々が踊り狂ってそのまま衰弱死してしまう。この時代のことは詳しくないしパラケルススも名前くらいしか知らないけど、なんとも奇妙な面白さのある話だった。
- 宮内悠介「パニック――一九六五年のSNS」
情報技術が30年早まった日本。白黒テレビに繋いだ初期コンピュータでカタカナだけの文字通信SNSが流行する。そして開高健がベトナム戦争取材中にゲリラに巻き込まれる事件。それがSNSで大炎上。自己責任。世界初の炎上事件。歴史のifで、ここまで色々な史実をミックスするとは!このカオスさがほんま最高に楽しい!こんな面白い短編は久々!宮内先生はなんとなく今まで触ってこなかったけど、これは長編とか読んでみたくなった!
- 斜線堂有紀「一一六二年のlovin' life」
平安時代。和歌を詠むことがstatus。しかしこの作中の平安時代では、和歌は詠語(英語)で詠まなければならない。なんというヘンテコな設定。しかしこれが極上の百合love storyになるというacrobat!Excellent!和歌の才は格別だが詠語が得意でない皇女の式子内親王と、詠訳が得意な侍女の帥。二人の出会いと別れ。beautifulな時間百合SFだった!斜線堂先生はideaも筆力も凄まじい!
- 小川一水「大江戸石廓突破仕留(おおえどいしのくるわをつきやぶりしとめる)」
これはすごい時代SFね!石の壁を構築して防御された江戸の街。しかし江戸に綺麗な水を供給する玉川上水に毒が。犯人を追う内に、時代小説と思って読んでたら大きな歴史改変SFが見えてくる。見事。ほんまに光瀬龍の時代SFばりの傑作。時代の息遣いの見える時代小説、そしてまさか「●●のない日本」という歴史改変SF。その発想をしっかりシミュレーションしてるのがすごい!こういう江戸時代になるねんな〜。面白い!
- 伴名 練 「二〇〇〇一周目のジャンヌ」
これまた傑作!ワームホール技術と量子コンピュータで過去を覗き見できるようになる。なので歴史の論争はなくなる。しかし歴史上の人物の内心は分からない。そこで量子コンピュータでシミュレーション。フランス。右派政党は、ジャンヌ・ダルクを国粋主義の英雄に祭り上げる。しかし左派政党はジャンヌのアラを探したい。そこで量子コンピュータ。ジャンヌ・ダルクを何万回も再生シミュレーションする。そこで神を罵る言葉を一回でも言えば鬼の首を取ったようなもの。当のジャンヌの主観からすると、処刑の日を何万回も繰り返すことになる。えぐい。しかし次第にジャンヌは処刑を免れたり、色々な行動をするようになる。ジャンヌが生きていたら、どうなったかのifが何パターンも考えられていて圧巻!そして最後の三〇〇〇一回目のジャンヌの選択。ジャンヌはやっぱりジャンヌだった。偽史は伴名練の得意な形だけど、また違った料理の仕方で、面白かった!やっぱり伴名練はすごい。