くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

キャプテン・フューチャーの幸運

宗は財布から百円硬貨を三枚取り出し、投入口に突っ込んだ。
「頼む!希望のモノ、出てくれ!」
全意識を右手に集中し、祈りを込めて、そしてレバーを回す。ガチャガチャ。この瞬間の、何が出てくるかという期待と不安が堪らない。
そして歓喜の瞬間が訪れる。


「今日はわざわざありがとうな。オレの地元まで来てくれて」
「いいよいいよ。会いたかったから」
「それにしても、せっかくの地元でのデートやのにジョーシンに付き合わすだけって。ごめんな」
「だから大丈夫やって。今日は宗君の好きなことしてええから」
ここは岸和田市内の国道26号線沿いにある家電量販店の前。宗はとある目的を果たすために、恋人の瑠美子に付いてきてもらったのだ。
「今日は目的のガチャガチャあるといいね」
「そうやな。ジョーシンなら入荷してると思うんやけどな」
二人は言いながら、入店した。そして入ってすぐのガチャガチャのコーナーへ。
「あ!ここにあった!宗君、こっちこっち!」
「お!よっしゃー!やっぱり入荷してくれてたか!さすがジョーシン、キッズランドはオレたちキッズの味方!ありがたいー!」
目的のガチャガチャ、それは「キャプテン・フューチャー カプセルフィギュアコレクション」という商品だった。キャプテン・フューチャーとは、アメリカのスペースオペラSF小説で、アニメ化もされた有名な作品である。そのキャプテン・フューチャーが、小説の挿絵もそのままにフィギュア化された商品が、今回の「キャプテン・フューチャー カプセルフィギュアコレクション」なのだ。
「よし。では早速」
宗は硬貨を投入してレバーを回した。ガチャガチャ。
そして出てきたカプセルを手に取り、素早く開いた。
「ウル・クォルンやんけ!」
宗は叫んだ。
「どういうキャラなん?」
キャプテン・フューチャーの敵やな。何度も戦ったライバル。でもまぁハズレやな」
「そうなんや」
「よし、もう一回や」
宗は再び効果を入れてレバーを回した。ガチャガチャ。
また出てきたカプセルを素早く開く。
「サイモン・ライトや!ウケる!」
「なにこれ?キモ」
「たしかに!脳だけが透明の箱に入ってるっていうキャラやから」
「これも敵なん?」
「いやいや。キャプテン・フューチャーの育ての親みたいなポジションやな。チームの顧問みたいな」
「じゃあ仲間なんや」
「そうやな。でも正直、当たりではないなー。残念。よし、もう一回、回してみるか」
宗は調子に乗って、三度目に挑戦する。「頼む!希望のモノ、出てくれ!」ガチャガチャ。
「お!グラッグや!やったー!」
「なになに?当たり?」
「そう!オレの一番好きなキャラ!キャプテン・フューチャーの仲間のロボットやな」
「よかったやん!」
「ありがとう。しかもグラッグのペットのイイクまで付いてるやんけ!」
「なんかカワイイ」
「そうやねん。月犬(ムーン・パップ)のイイク。グラッグはロボットやのにペットを飼ってるねん」
「へぇオモロイなー!」
「そうやろ?今度、本貸すから読んでみてよ?」
「うん、わかった!借りる~」
宗と瑠美子は盛り上がった。
「よし、じゃあそろそろ帰るか?」
「もう終わるの?」
「そうやな。ガチャガチャは三回までって決めてるし」
「そうなん?……なら私が回そっかな」
「え?瑠美ちゃんが?」
「うん!やってみる」
そういうと瑠美子はおもむろに財布から硬貨を取り出し、レバーを回した。ガチャガチャ。
「何が出るかなー?」
瑠美子は小さな手でカプセルを開いてみせた。
「おー!カーティス・ニュートンやん!!キャプテン・フューチャー!!大当たりや!!」
「やったー!主人公?」
「そうそう!太陽系の平和を守る主人公!すごいなー!!」
「へへへ。じゃあこれ宗君にプレゼントする」
「ええ、ありがとう!実は主役も欲しかった。ありがとう!瑠美ちゃんは幸運の女神や」
「そこまで言わんでも」
瑠美子は照れながら微笑んだ。
「せっかくやから、もう一回やってみようかな」
「もう一回?なんかガチャガチャにハマってきた?」
「うん。なんかコツわかってきたかも。よし」
瑠美子は再び硬貨を投入した。ガチャガチャ。
「なにこれ?変なオッサン出てきたよ?」
「どれよ?リストにないキャラやん。シークレットか?」
「なんか太い下がり眉のオッサンやで?」
「ってこれ、野田大元帥やんけ!?」
大元帥?」
「そう!野田昌宏!宇宙軍大元帥を名乗ってる、このキャプテン・フューチャーの翻訳者!特徴的でこの人の顔のイラストが本の表紙になってたり、キャラクタ化してるねん!まさか野田大元帥がシークレットなんや!?ウケるわ!大当たりやん!」
「やったー!じゃあこれもプレゼント」
「ええの?ありがとう!やっぱり瑠美ちゃんは幸運の女神や」
宗と瑠美子は大いに盛り上がって、ガチャガチャのコーナーを後にした。


二人は電車で数駅移動したところにある、夕暮れの海浜公園に来た。ベンチに腰掛けて二人で今日のことを思い返す。
「今日はありがとうなー。わざわざこっちまで来てもらって。ほんでガチャガチャまでいっぱい当ててもらって」
「いいよいいよ。楽しかったから」
「それにしてもキャプテン・フューチャー、だいぶそろったな」
「ふふ、よかったね!」
「この封入されてる紙によると、あとオットーとジョオン・ランドールさえ出したらコンプか。また行って狙ってみるかな?」
「それより、この紙のここ見てよ。第二弾の情報があるよ?」
「え?ほんまや。え、うそ!?第二弾は「銀河乞食軍団 メカニックフィギュアコレクション」!?うおー!!これは欲しい!!宇宙船「クロパン大王」とかあるんかな?うおー!欲しい!!」
「銀河乞食軍団?」
「そうそう。あのシークレットで出たオッサンが自ら執筆した宇宙SF小説のシリーズやねん。これもめっちゃオモロイねんでー!」
「これはまた回しに行かなくちゃやね」
「うん!そのときはまた一緒に来てよ?なんせ幸運の女神やから!」
「ええよー。またいいの当てるわ」
「幸運の女神も、宇宙も、どちらもツキが回ってくるもんやしね!」
二人の笑いがいつまでも二色の浜に響きわたった。