小松左京『時の顔』
- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 1998/12
- メディア: 文庫
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あらすじ
時は四十世紀の未来。その高度な科学をもってしても治療不可能な難病に苦しむ友人・カズミ。実は江戸時代から連れられてきたという彼の病因を調べるため、天保年間の江戸へと向かった「僕」が知った意外な事実とは?(時の顔)―時間と空間を超えて縦横無尽に駆けめぐるタイム・トラベルの特性と魅力をあますところなく生かしきった、時間SFの名篇11篇を収録。
小松左京の時間SF作品集。全ての短篇が読み応え充分でベスト級。ロジック系の「時の顔」から歴史改変の「地には平和を」まで時間SFの中心をシッカリと押さえたかと思うと、不老長寿やウラシマ効果またホラータッチなど変化球の時間SFもあり、あらゆるシチュエーションが考え尽くされている。また時間SFを題材にすることによって、文化の衝突や文明論を浮かび上がらせ考察する筆運びは、小松左京ならでは。さすが!
- 時の顔
ハインラインの「時の門」の系統のロジックが完璧にはまった時間SF。しかし江戸時代がテーマで、日本的でもある。
- 御先祖様万歳
ドタバタで楽しい。主人公のイナカの持ち山でトンネルを発見したら何と百年前とつながってる穴だと分かって村中が大騒動。なにより驚いたのが、主人公の曽祖父が江戸時代の人ってこと。60年代はそうなんか!?
- 地には平和を
太平洋戦争で終戦を迎えずに本土決戦をやってる歴史改変モノ。本土決戦ひいては戦争の悲惨さを重厚に描いてる。また歴史を改変することの是非(善悪)も論じられており、SF黎明期の1961年の作品とは思えない思索。
- 痩せがまんの系譜
結婚適齢期だけど特にイイ男もいないので積極的になれないキャリアウーマンに、謎の男が結婚相手を猛プッシュ。時間SFだと分かってるので、オチは大体想像できる。しかし60年代にも「最近の男は男らしくない」という風潮あった事に驚き!
- 哲学者の小径(フィロソファーズ・レーン)
大学時代にすごした京都を久々に訪れると大学時代の過去が交錯してくるという不思議な話。学生時代の行き場のない衝動は、京都の街によく似合う。さすが京大作家らしい作品。
- 愚行の輪
これも時間SF集に収められてるので、時間SFと分かって読んじゃうとオチが薄っすら分かってしまう。しかし自身への遺産相続の問題やタイムパラドックスなど、考えるべき点は多い。
- 比丘尼の死
人魚の肉を食べて不老長寿になった八百比丘尼の話。個人的には不老長寿ものを時間SFにカテゴライズしたくないんだけどw。しかし不老長寿テーマだからこそ、文明の進歩を批判的に切り取れており読み応え充分。あとエロイ笑
- 骨
井戸を掘ろうとしたら石器時代の骨が出てきた。さらに深く掘れば掘るほど新しい骨が。普通の堆積と逆。謎が解明すると背筋に寒いものが走るホラータッチの作品。オチが現代の災害にも通じるものがあり、さらに怖い。
- お茶漬の味
時間SFというかウラシマ効果の話。恒星間宇宙船で帰ってきたら120年後の地球、という設定からオートメーション化(機械化)についての文明論に発展していくのはさすが。官僚主義のコミカルな描写も、世代を通じて活きるネタだ。
- 失われた結末
戦前のある家庭が舞台で、空気感を味わうだけでも面白い。真ん中の兄がなかなか帰ってこなくて探し回っていると、老人の姿の兄と名乗る者が帰ってくる。正体を探るうちに特高も出てきて不穏な空気に。時間SFだかメタ構造もありかなり特殊な時間SF。
- ホムンよ故郷を見よ
これは時間SFというより壮大な宇宙SF。銀河支配種族と同じ人型だが指が一本多い十一本指のホムンという被差別種族の謎に迫る。種族をまるまる想像する小松左京の頭脳に感嘆。謎解き部分になってのタイムマシン登場は唐突にも思えたが、それすら瑣末に思えるほど壮大。薄っすらと想像はできたが、ホムンの語源と十一本指の秘密が解明したときの爽快感には嘆息!
★★★★☆