くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

山口亜哉子『まひるのはまべ』

まひるのはまべ

まひるのはまべ

読書メーターで相互登録させてもらっている卯月さんという方から以前に自主出版された本を譲っていただいたのが本書。幻想的な短篇を中心とした作品集。

  • リンゴ飴

青春のワンカットを巧みに切り取った作品。普通の青春小説短篇。青春を数年過ごせば、憧れの人(身近な人の場合もあるし有名人の場合もあるが)が結婚するというシチュに出会うと思うが、そのときの祝福したい気持ちと遠くに行ってしまう様な悲しい気持ちの両者で揺れ動く心情。この繊細微妙な気持ちが短篇に切り取られていてよい。

  • あの海を抱きしめて

これも青春の1コマを切り取った短篇。風鈴の音を通じて高校生カップルの心が少し通じた話。風鈴の音は涼感だけじゃなくって心を浄化するような作用もあるというのがポイント。青春の舞台はやっぱり夏やね。

  • 朧月夜

新任教師と不思議な体験って相性がいい気がする。月夜に照らされた夜の菜の花畑というのは、死後の世界とオーバーラップする情景だ。

  • 天の河原で

忘れられた宝物の行く末。幻想的だが、切ない。だれにでも子供の頃の忘れ去った思い出の品があると思うので、その後を思い起こして誰もが切なくなると思う。

  • 夜空の向こう

SF短篇。ドーム都市で暮らす少年たちが、ドームの壁面に映る星空を見て、今は荒廃して見れない本物の星空を思い描く。…というスタイルは、やがてドーム都市を飛び出し世界の真実の姿を知る、というSFのプロローグを幻視させる。ぜひSF大長篇も読みたい。

  • 冥界の女王

ギリシア神話をモチーフにした短篇。ギリシア神話に明るくないからどこまでが創作か分からないけど、作者の知識をとらえなおして風刺化するのは、いま読メの呟きで毎日アップなされている掌編に通じる。

ネズミが集団で海に飛び込む姿から膨らまされた話。自殺する直前の心情は、遺書を遺していない限り自殺する人にしか分からない。もしかしたら本当に海に還ろうとしているのかも、と思わせる。

ホラーとしか読めなかった。ホラーは無理。この主人公の不安がどんどん膨らんでいくような描写が無理。このどろっとしたような不気味さを味あわせてるんだから、短篇としては成功か。

「真昼の浜辺」という台詞がリフレインされることで、永遠に続く浜辺の永遠に続く波音が連想され、幻想的。第一部と第二部が入れ子構造になっており、第三部でSF的な世界観が表れる構成も好きだ。人類後の世界が永遠に続く様子が、真昼の浜辺の光と波のイメージから喚起され、そして表紙の写真と相まって鮮烈に伝わってくる。