- 作者: 森下一仁
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1980/10
- メディア: 文庫
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あらすじ
少年は夏祭りの夜に、買ったばかりのバイクを盗まれてしまった。それまで身辺にあったものが、突然無くなる喪失感。前途に光が見えず、世の中全体がうっとうしく、自分とは無関係なものに思えてくる。悪友たちと酒宴を開くが、いっときのウサばらしのあとは、軽い二日酔いが残るのみだ。けだるい日々の中で、少年はいつのまにか、庭の早咲きのコスモスの葉っぱを寝床にしているカナヘビと心が入れ替わってしまっていた……「コスモス・ホテル」ほか、ファンタスティックなムードをたたえながら、あくまあでもSFそのものを感じさせる新鋭の処女短篇集。
森下一仁の第一にして代表的なSF作品集。どの短篇も梶尾真治をより繊細にしたような叙情的SFで大満足。白眉は表題作。ただ高校生がカナヘビと心が入れ替わるだけの話だが、瑞々しい筆致で高校生の少年の視点が描かれる素晴らしい短篇。原付が盗まれる、同級生から取り留めのない手紙を貰う、悪友とお酒を飲む、全ての何気ないエピソードが清新できらきらと輝く断片としてちりばめられており硝子細工のようで清々しい。他にも「若草の星」「風の浜辺」「ヌクヌク」「濡れた指」などがお気に入り。特に「若草の星」は傑作。彼女を亡くして自責の念に駆られた男が、異星で彼女の姿をした知性体と出会う。…という設定はレムの『ソラリス』にも通じる。しかしレムは人間には理解できない知性を徹底して描いたのに対し、こちらはより感傷的。主人公が傷心を癒す装置としてしか異星体を見ていなかった中盤だが、ラストでついに異星体の心と通じるシーンは感涙もの。叙情SFのマイベスト。
- コスモス・ホテル
- 若草の星
- 風の浜辺
- ヌクヌク
- プアプア
- 濡れた指
- ユウ・とどかぬ叫び
- 風船草の祭り
- 嵐のあとで
- シナモン・ドロップス
★★★★☆