くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

橋本輝幸編『2010年代海外SF傑作選』

あらすじ
“不在”の生物を論じたミエヴィルの奇想天外なホラ話「“ザ・”」、映像化も話題のケン・リュウによる歴史×スチームパンク「良い狩りを」、グーグル社員を殴った男の肉体に起きていた変化を描くワッツ「内臓感覚」、仮想空間のAI生物育成を通して未来を描き出すチャンのヒューゴー賞受賞中篇「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」…2010年代に発表された、珠玉のSF11篇を精選したオリジナル・アンソロジー

面白かった!さすがグローバルの時代!色々なSFが楽しめた!「ロボットとカラスがイースセントルイスを救った話」が題名そのままでGOOD!チャイナ・ミエヴィルの架空の動物の論文も盛大なホラ話で最高!2020年代もいい時代になってほしい!

突然、眼前に青い炎が見えて消えなくなる奇病。その火炎病になった兄を持つ主人公は、啓発のためにARでその病を再現するプロジェクトに参加する。果たして火炎病とは何なのか?これは面白い!病因が判明するラストの意外性。短い短編ながら、遠大は設定だ!

  • 郝景芳「乾坤と亜力」

インフラから各個人のインターフェイスまで、あらゆるものを統制する超巨大AI・乾坤。何でも出来る乾坤だが、エンジニアから次に与えられたタスクは「子供から学べ」。「子供に学ばせる」のではなく。万能AIが何を学べばいいのか?そして無垢な子供の亜力の奔放さに振り回される乾坤。そして、ある結論に辿り着く乾坤。たまにはこんな牧歌的なAIのSFもいいね!

米CDCの健康観察ロボット。空を飛んで家々を回り感染症の流行を見つけるロボット。しかしCDCが破綻。ロボットは野良となっても街の健康を観察し続ける。しかも余暇で街のカラスと仲良くなりカラス語も習得。このロボットとカラスが街を救うことになる!これはいい話!ロボットが健気!そしてカラスたちも愛しい!こんな子たちがいれば、感染症も早期発見できるのに。コロナ禍に読むべき1編だわ!

  • ピーター・ワッツ「内臓感覚」

グーグル社内で暴力事件。調べていくと、この男はグーグルのロゴを見ると暴力衝動が湧いてくるように突然なったらしい。果たして何か原因なのか?また面白いSF的ギミック。内臓には猫の脳くらいの神経があり第二の脳らしい。そこに仕掛けをすると人を意のままに動かせるとのこと。胃腸ってそんなに大事だったんだ!たしかにストレスも一番に来るしね。腸内環境、整えていこ!ってか欧米ってそんなにGAFAを危険視してるんだ?ワッツさん、めちゃくちゃグーグルにヘイト溜まってるやん!日本人はノンキに使いまくってるけどね〜。

  • サム・J・ミラー「プログラム可能物質の時代における飢餓の未来」

まず前半は、プログラム可能なポリマー(粘土状の素材)であらゆる物が即席で作れるようになる近未来。車がいるとなったら、そのとき指示を出したら素材が勝手に車になたったり。超便利な世の中。後半は、しかしそのプログラムがテロで暴走。怪獣になったり、暴走して街の人口の1/3が死亡。とんだディザスター。そんな近未来のテクノロジーとその暴走破滅が、ゲイの仲間内の関係性の中で語られる。テクノロジーは面白いけど、ってかこれゲイ要素いる?別に要素がなくても普通に成立するし。この関係性が破滅の原因とかなら分かるけど、これ何のためにこの要素を入れたか謎。

  • チャールズ・ユウ「OPEN」

倦怠期カップルの部屋に突然現れた“door”の文字。部屋の真ん中に文字が現れるというシチュエーションも謎だが、そのdoorから入って中でパーティしてるのも謎。「すこしふしぎ」な話で掴みどころはないが、何かのメタファーなんだろうか?意味不明だけど心に残る小品。

さすがに中華SFの第一人者!読ませるストーリー。冒頭は中華ファンタジーでSFではないのかなと思ったら大胆なストーリー展開でスチームパンクSFに!?面白い!清朝末期、妖怪ハンターの父子。そして妖狐の母娘。しかし英国人が入ってきて近代化し、アヤカシの力はどんどん消えていく。そしてスチームパンク。時代の流れの悲哀、そして妖怪とスチームパンクを見事に融合させた傑作!

  • 陳楸帆「果てしない別れ」

これまたストレートな現代SF!脳出血で機械による意思疎通以外何も出来なくなった主人公。絶望的。しかし軍は、深海で発見された知性を持つ蠕虫(ミミズ)とのコンタクト役に抜擢する。異質な知性とのコンタクトを綿密に描いてると同時に、妻との馴れ初めからその先までストーリーテリングも上手い。中華SFも侮れないと再認識。

  • チャイナ・ミエヴィル「“ ”(ザ・ )」

タイトルからしてミエヴィルらしい!架空の動物に関する論文。その架空の動物ってのが、誰にも見えない“ ”という動物!人をくったような設定!上手いな〜!誰にも見えない動物を延々と解説するとか……楽しすぎ!さすが『都市と都市』のミエヴィルだ!

  • カリン・ティドベック 「ジャガンノート-世界の主」
  • テッド・チャン「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」

収録作品

  • ピーター・トライアス「火炎病」
  • 郝景芳「乾坤と亜力」
  • アナリー・ニューイッツ「ロボットとカラスがイースセントルイスを救った話」
  • ピーター・ワッツ「内臓感覚」
  • サム・J・ミラー「プログラム可能物質の時代における飢餓の未来」
  • チャールズ・ユウ「OPEN」
  • ケン・リュウ「良い狩りを」
  • 陳楸帆「果てしない別れ」
  • チャイナ・ミエヴィル「“ ”(ザ・ )」
  • カリン・ティドベック 「ジャガンノート-世界の主」
  • テッド・チャン「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」

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