くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

すばらしい新世界

◆第一章「すばらしい新世界」

折田白三は今日も「豚まん」工場での勤務を終えようとしていた。
ただひたすら豚まんを「ある時」と「ない時」に振り分けるのである。何が「ある時」なのか「ない時」なのかもハッキリ理解せず、ただ無思考でベルトコンベアから流れてくる豚まんを振り分ける。
白三は無思考を心がけていたが、それでもストレスが溜まってくる奴はいる。隣で作業している鳴海も、次第にストレスは大きくなっていっており、今にも破裂しそうだった。そしてそれは起こった。
「うわぁぁぁ」
鳴海が奇声を上げた。
「ある時!ない時!うわぁぁぁ」
奇声を上げながら髪を掻きむしり目も血走っている。
警備員が走ってきた。鳴海を羽交締めにする。そしてもう一人の警備員が鳴海の口を大きく開き、漏斗を突っ込む。そこに「ソース」をどばどばと注ぎ始めた。この串カツ用ソースは、鎮静効果と幸福効果の二度漬け作用があるらしい。鳴海も大人しく横たわり、恍惚とした表情をしている。やがて美化理想社会憲兵、通称「ビリケン兵」が来て鳴海を引き取っていった。
白三は一連の騒動を尻目に平然と工場を後にした。一羽のモズが大空を羽ばたくのを一瞥しながら、家路を急いだ。

この世界は純白で清浄なすばらしい新世界である。その中心には「美化理想社会研究所・ビリケン」がある。ビリケンの本部は新世界の中心にそびえ立っている。そう「通天閣」だ。
かつてこの社会は一つの民主主義政体として繁栄していた。しかし八十年前に「紛争」が起こった。いやこれは「粉争」と呼ぶべきかもしれない。摂津と河内と和泉それぞれの地方が独立を宣言し、各地方に対して宣戦を布告した。摂津はイカ焼き、河内はお好み焼き、和泉はタコ焼き、それぞれの粉モンを擁立し、誰が正統な王朝なのかを決するべく戦争を繰り広げた。とくにメリケン粉の供給路を巡る戦いは激化を極めた。粉争は一年で終息したが、浪速周辺は焼け野原となった。
そこで戦後その地域の管理を任されたのが「美化理想社会研究所」であった。
美化理想社会研究所・ビリケンは、徹底的に管理された社会を目指した。
市民は受精卵の段階から「選別」され、てっちり鍋のなかで培養される。そして階級ごとに体力も知力もあらかじめ決定される。各種の予防接種も徹底的に受けているため、猛虎熱以外の病気になることはない。
市民は成長期においても、徹底的に「おっ!サンTV」による睡眠学習がなされ、自らの「環境」そしてビリケン下部組織である「虎党」への入党に全く疑問を抱かないように教育される。市民は徹底的に管理されたが、生活には完全に満足している。
もしそれらに疑問を抱くようなことがあれば「串カツ用ソース」で幸福を享受させられるのだが。
こうして「すばらしい新世界」は成り立っているのである。

白三は家に戻った。
居間には妻がいた。白三は「ただいま」と言ったが、妻は目も合わさずに「おかえり」と言うだけだった。妻の目はTVに釘付けだった。
白三もTVに目をやった。そこには、おっ!サンTVが延々と流れていた。野球、ゴルフ、釣り、アニメ。美化理想社会研究所の検閲を通ったコンテンツ。何も考えずに、ひたすら視聴を繰り返すことができるコンテンツばかりだ。
白三はうんざりとして、自室にそのまま入った。

白三はデスクに向かうと鍵の掛かった引き出しからスマホを取り出した。音声認証兼生体認証を試みる。
「関西ぃ電気保ぉ安きょーかい、ホテルニューあーわぁじぃ、お仏壇のはまやぁ」
認証をパスしてスマホを開く。白三はアプリ「ツレグラム」をタップした。ツレグラムは、秘匿性の高いツレとつるむための通信アプリのことだ。ビデオメッセージが一件着信していた。

「こちらリーダーのアンクル・リクロウである。皆よくぞここまで『新世界』への潜入任務を続けてくれた。我らがレジスタンス『フェスティバルゲート』を支えてくれた。しかしそれももう終わりだ。一斉蜂起の日はいよいよ明日!絶対にフェスティバルを成功させよ!自由を勝ち取り、祝祭を成就させよ!以上」

ビデオメッセージが終わった。いよいよ明日、この新世界を打ち倒す行動が始まる。白三もフェスティバルゲートの潜入メンバーとして活動を開始する。改めてこのいびつな社会を糺す決意を固め、白三は明日のために身体を休めることにした。

◆第二章「新世界より」

ドンという激しい衝撃が立ち上がった。庭にいたモズも驚いて飛び去ってしまった。ジャンジャン横丁あたりの数ヶ所から火の手が上がる。
白三も密かに準備していた装備を整え、フェスティバルゲートの仲間と合流した。目指すは美化理想社会研究所の本部である通天閣だ。
ジャンジャン横丁での散発的な衝突を抜け、辨天通へ。さらに中央通へとじりじりと歩みを進めていく。しかしあまりにも抵抗が少なかった。白三は何かおかしいと感じた。しかし新世界本通の直前まで来て、今まで静かだった理由が分かった。そこには巨大バリケードがあった。大量のビリケン兵が堅固な守りを築いていたのだ。それはさながら真田丸のようであった。難攻不落の真田丸とあっては、フェスティバルゲートの戦力では落とせそうにない。
そこへビリケン兵の一人が拡声器で叫んだ。
「不穏分子どもに告ぐ!ただちに投降しろ!さもなくばこういう目に遭うことになるぞ!」
ビリケン兵の脅しの言葉が響くと同時に、通天閣の頂点に光が帯び始めた。そして空気がぴりぴりと振動しだす。
「あそこは本来、天気の情報を色で示していたところや。何が起こるんや?」フェスティバルゲートの仲間たちにも動揺が走る。
そのとき通天閣の頂点から空気の圧のようなものが飛んだ。その圧は通天閣から西のほうへ。ちょうど舞洲のあたりに着弾した!
ビリケン兵の拡声器から高笑いが飛んだ。
「フハハハ!これぞ新兵器ドヴォルザークの威力だ!今ごろ舞洲のユニバーサル・モリジオ・ジャパンは衝撃波で瓦礫の山だ!」
「UMJが!壊滅!?」
「貴様ら反乱分子が投降しなければ、新世界一帯がこうなるのだ!」
万事休す。フェスティバルゲートの面々は成すすべなく、動けなくなった。
全てが終わった。白三は歯噛みした。こうなると投降するしかない。
フェスティバルゲートの面々に絶望の色が広がった。

その時だった!
「ソーリャ!ソーリャ!」
笛と太鼓と鐘の音とともに、たくさんの人の掛け声、そして巨大な車のようなものが南側から突入してきた!
「あれは地車(だんじり)?!いや和泉の国の地戦車部隊や!」
地戦車(だんじり)は次々とバリケードへと突入。バリケードを蹴散らしていった。
さらに次の瞬間、空に閃光が走った!その閃光は北の空から、通天閣の頂点に直撃。ビリケン兵の新兵器ドヴォルザークは炎上した。
「あれは摂津の国の『太陽の砲塔』!摂津のタロー木田オカモト博士が開発したという!あの秘密のビーム兵器で援護射撃が来たぞ!」
新兵器ドヴォルザークは完全に機能不全になったようだ。
さらに!
「京橋はぁええとこだっせ♪」
西側から歌声が響いてきた。
「京橋軍の軍歌や!河内の国の軍勢と京橋軍が合流して加勢に来てくれたぞ!」
風向きは変わった。ビリケン兵の防衛網は完全に崩れた。
白三たちはこれを機とみて、通天閣の内部に突入した。

通天閣の最上階に白三たちは突入した。
美化理想社会研究所の本部とは思えない、がらんとした空間だった。
白三は空間の中心部の祭壇のようなものに銃口を向けた。
「なんだ?ビリケン像か?」
そのとき、その像から声が響いた。
「よくぞ来た、新世界の住人たちよ」
その声と同時に、ビリケン像が揺れ動き、崩れ落ちた。その奥にはさらに部屋があるようだ。
「さぁ入りたまえ」
声に導かれるように部屋へと突入する。
そこには大きな水槽のような培養槽があった。
培養槽の中には、赤と青の細胞のような塊が蠢いていた。
「美化理想社会研究所の首魁はお前なのか?」
白三は恐る恐る聞いた。
「そうだ。よくぞ、来てくれた」
機械音声が答え、さらに続けた。
「新世界の市民よ。よくぞ、ここまで力を付けたものだ」
培養槽のなかの赤と青の細胞はうねうねと動き、それと呼応するように声は続く。
「我はオーサカによって生み出された。しかしこの不完全なカタチで。オーサカは我を『蛮魄』と呼び、見世物にするつもりだった。だから我はオーサカに復讐する!オーサカを破壊する!」
細胞の脈々と動き続ける。
「そのために人々を支配し、手なづけてきた。そしてこの通天閣を造らせた」
白三たちは黙って細胞を見つめる。
「だが兵器は君たちによって破壊された。しかしこれで終わりではない。まだ我には最後の手がある!これを見よ!」
すると赤と青の細胞が激しく脈動しだし増殖しだした。やがて細胞は培養槽いっぱいになり、ついには培養槽のガラスが割れる。それでもぬらぬら蠢く細胞はついには人間よりも大きくなり、さらに増殖を続けていった。
白三たちは一斉に細胞に向けて発砲したが明らかに効果はない。だが増殖は続く。細胞が部屋の大きさ近くまで増殖し、さらに脈動は大きくなってゆく。
「一時、退避や!通天閣から撤退!」
フェスティバルゲートの面々は散り散りになりつつも、通天閣から脱出していった。

◆第三章「天王寺動物園」

今や細胞は通天閣をも取り込み、さらには人型になり百メートルは優に超える体高の巨獣となった。赤と青の細胞はそのままに、各所には目玉のようなものも発生し、その巨体はぬらぬらと蠢動している。
今は移動はしていないが、これが動くとなると街はどうなってしまうのか?
京橋軍が周囲を囲っているが、人の力では気休めにもならない。地戦車からの攻撃も、ごより豆の豆鉄砲を食らった鳩よりも効果は薄い。太陽の砲塔は先ほどの一撃から応答もなく沈黙している。
その時、細胞獣が動き出した。その巨体を大きく揺さぶりながら、一歩一歩進む。その足元では何軒もの家々が蹂躙されている。細胞獣は破壊を楽しむかのように進み続けた。
万事休す。大阪の終焉。誰もがそう思った。

暗澹としたフェスティバルゲートの面々に向けて誰かの声が響いた。
「待たせたな」
「その声は?!アンクル・リクロウ!」
その声は、フェスティバルゲートのリーダーである我らが偉大なる伯父、リクロウのものだった。
「君たち、ここまでよく持ちこたえてくれた。だがまさかここまで街が破壊されてしまうとは。しかしこんなこともあろうかと秘密兵器があるのだ!白三君、付いてきたまえ」
リクロウは地戦車の屋根の上から、白三を車内に誘い入れた。そのリクロウは、だんじりの上で舞う大工方のように、ハッピとうちわで武装していた。
そのまま地戦車は鐘と笛と太鼓を鳴らしながら走り出した。新世界を出て天王寺動物園の中のカーブを次々と「やり回し」で攻めつつ巡行した。そして阿倍野へと到着した。
「ここじゃ!そしてこれを託そう」
それは黄金の梃子だった。
梃子とは、だんじりの舵を取るための木の棒だ。しかし黄金の?なにに使うのか?
「それを天に掲げよ!そして『ハルカス』と叫ぶのだ」
白三はわけも分からず、ただ言われるままにやってみた。
「ハルカァァース」
すると黄金の梃子は光に包まれ、白三の体は宙に浮かび上がった。
それと同時に、あべのハルカスが鳴動した!あべのハルカスが立ち上がり、人型に変形したのだ!
浮かび上がった白三はハルカスの展望デッキに吸い込まれ、そこが操縦席になった!
「ゆくのだ!機動巨兵ハルカス!」
そうつぶやきながらリクロウはハルカスが細胞獣を倒しに行くのを見送った。

操縦席に座る白三は不思議なことに操縦方法が自然と分かった。操縦桿となった黄金の梃子から脳へ直接、操縦方法と肉吸いが送られたのである。
ハルカスは白三の手足となった。
ハルカスは走った。天王寺動物園を蹴散らしながら走った。
もう目の前に細胞獣が。
「街中で暴れさせる訳にはいかん」
ハルカスは細胞獣を両腕でホールドした。そしてそのまま西へ飛んだ。海の方まで押しやろうというのだ。
「その調子だ、白三君!そして関空まで押しやるのだ」
「アンクル!関空ですか?了解!」
ハルカスは暴れる細胞獣を抑え込みながら、大阪湾に出た。そして海上を南進し、ついに関空が見えてきた。
「関空には、宇宙へのマスドライバーがある。そこに細胞獣を乗せるんだ!宇宙へと投射するのだ!」
「宇宙へ!?」
白三は驚いた。だがやるしかない!
蠢き増殖している細胞獣ではあるが、なんとか抑え込むハルカス。やっとのことでマスドライバーに抑えつける。
「やってくれ」白三は叫んだ。
「発射三十秒前」
細胞獣は暴れ続ける。ハルカスは殴り続ける。
「発射十五秒前」
そのとき、細胞獣が捨て身の攻撃を掛けてきた。体の中から巨大化のとき取り込んだ通天閣の時計部分を円盤のようにして吐き出してきたのだ。円盤はハルカスの左腕を切り落とした。切断面から
、きつねうどんが流れ出る。
「片腕では細胞獣を抑え込めない!ハルカスの機体全体で抑え込むしかない!抑えている間に、俺ごと宇宙へ射出しろ!」
白三は叫んだ。必死に抑え込む。
そしてカウントは零になった。
細胞獣とハルカスは一体となり宇宙へ射出された。

◆第四章「オイド・スクリーン・バロック」

宇宙に空気はない。
白三は目を覚ました。ここは宇宙。しかし脳へ直接、肉吸いが送られていたことで一命は取り留めた。
「しかしこのままでは麺欠乏症になってしまう。あとは酸素も必要」
白三は操縦席の後ろを引っかきまわした。幸いなことに、そこにはヒョウ柄の宇宙服があったので、着用した。ヒョウ柄は斑点なので「反転」に通じるということで伝統的に宇宙服にプリントされている模様だ。
宇宙服の空調をオンにした。
「うーん、小麦のいい香り。生き返る」
麺の小麦の香りがバイザー内に広がる。
白三は冷静さを取り戻す。
現状確認をする。
ハルカスの機体を動かしてみる。動かない。
モニターを確認する。手足が細胞獣の体に埋まっている!それでハルカスの自由が奪われている。しかもその細胞獣はさらに増殖しており、いまやハルカスの五倍ほどの大きさになっている。
「動け!ハルカス!頼む!なぜ動かん!」
万事休す。ここまま赤と青の獣と宇宙漂流か。
白三は諦めかけた。そのとき!
「白三君!聞こえるか?」
「その声は?下原さん!」
「私もいるぞ!」
「アンクル!」
我らがフェスティバルゲートのリーダーであるアンクル・リクロウと「銀輪の革命家」と呼ばれる参謀のチャリンコ・チェ下原の声だ!
「まさかチャリンコで宇宙まで?」
「バカなことを言うでない!これを見よ!」
白三はモニターを確認した。そこには地球の大気圏を離脱し、助けに来てくれた梅田スカイビルとりんくうゲートタワービルが飛来していた!
「今助けるぞ!これでも食らうがいい」
チェの掛声から、ゲートタワービルの一斉射撃が始まる。ハルカスの周囲の細胞が次々と焼き払われ、ハルカスの拘束を断ち切る。
「ありがとうございます!しかしコイツをどうするんです?」
「まだ手はある!白三君!操縦桿の横のボタンを押すんだ」
そこには道頓堀の水を集めて固めたような色のボタンがあった。
「分かりました!押します!いっけぇぇぇー!」
「俺たちも」
「レェェーッツ!ドゥ!トゥーン!」
リクロウとチェも同時にボタンを押した。
するとゲートタワービルは二つに分離しハルカスの脚部にそれぞれ合体。またスカイビルも変形しハルカスの上半身に合体。ハルカスは増強パーツが付いたことにより巨大な機体となった。
「これぞパワーアップした『キングハルカスカナタス』だ!」
「これで細胞の増殖を止められるか?」
「やるしかない!いくぞ!」
白三は気合いを入れ直した。

そのとき、宇宙空間を一羽のモズが飛んだ。
「鳥?ここは宇宙だぞ?」
白三は周囲を見回した。
「『お居処』を狙うのです」
宇宙全体に響いたその声は、どうやらモズから発せられているようだ。
「わいど?」
白三は困惑した。
リクロウはそれに応える。
「若い白三君には分からんだろうが、『おいど』だ。それは古代の大阪弁で『尻』のことだ!ヤツのケツを狙えということか?!」
「やってみる価値はありそうだ」
チェもそう応じる。
「そうか。やってやる!やってやるぞ!」
白三は周囲を見回した。キングハルカスカナタスの周りにちょうど「咲州庁舎」が漂っていた。それをキングハルカスカナタスにつかませ、刀のように構えてみせる。
「いける!」
キングハルカスカナタスは全駆動をフルブーストし細胞獣に突撃し、剣戟を繰り出した。
「必殺!突き化粧!!」
キングハルカスカナタスの剣戟は、細胞獣の尻の部分にあった目玉をタコ焼きのごとく突き抜いた。
細胞獣の蠢きは止まった。増殖も止まった。
「や、やったぞー!」
三人は歓声を上げた。
その周りにはモズがまだ舞っていた。

◆第五章「黒門」

モズはまだ舞っている。やがてモズは光に包まれた。そして人型となった。
「私は大阪を護っていた神である」
「まさか、モッピー?!」
白三は驚いて言った。
「そうだ。私はかつてモッピーと呼ばれていた。しかしUMJのモッピーと同じ名前ということで裁判に敗れ、オーサカによって名前を奪われた。そして『もずやん』という名前とともにオーサカによって封じられていた」
「やはり!オーサカのせいで」
チェは毒づいた。
「そして私は長年封じ込められていた。しかし私の封印は解かれた。そうUMJの盛り塩が通天閣のドヴォルザークによって破壊されたため、私は自由になれたのだ」
「あの通天閣に攻め込んだときの攻撃が!」
リクロウは驚いた。
「あの通天閣のドヴォルザーク攻撃は、この細胞の意思によって行われたのだな?ということは私は細胞によって助けられたということだ」
「たしかにそうなります」
白三はうなずいた。
「細胞よ。今度は私が助ける番だ。そなたもオーサカによって不本意に生み出された身。私とともに別の世界へ行かないか?」
細胞は肯定するかのように発光信号をだした。
「そうか。私とともに行ってくれるか?」
「しかしモッピー様!どこへ行かれるというのです?」
リクロウは尋ねた。
「銀河の中心部、そこには『黒門』と言われるブラックホールがあると言われている。そこを通って次の新しい宇宙へ上新する」
「上新!?」
三人は理解が追いつかない。
「では、さらばだ。君たちは自らの手で新しい世界を作るのだ!」
モッピーと細胞は光に包まれた。そして一瞬で消え去ってしまった。
残された三人の中には上新を祝うかのような上新の凱歌だけが胸に響いていた。

◆最終章「ニューワールド」

三人はキングハルカスカナタスで地球に戻ってきた。満身創痍の機体で大気圏突入する。
無事に日本が見えてきた。新世界上空を通過する。そこにはフェスティバルゲートのみんなや市民たちが歓喜の行進を行なっていた。これからこの市民たち全員で新たな社会を作ってゆくのだ。
キングハルカスカナタスは大阪湾に着水した。キングハルカスカナタスはもうボロボロだ。とくに頭部装甲は今にも風に吹き飛びそうだ。
白三たち三人はそこから外へ抜け出し、砂浜に這い上がった。
やっと戻ってきた。ついに全て解放したのだ。
三人は無言で砂浜を歩いた。
やがてチェが何かを見つけた。
「あれを見ろ」
それは下半身が砂に埋まり、地面から上半身を斜めに出した「くいだおれ人形」であった。
「ここから俺たちのニューワールドが始まるんだ」
くいだおれ人形も心なしか微笑んでいるように白三には見えた。