くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

宮野優『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』

おめでとう! あなたたちに、明日はない。
永遠の「今日」を繰り返す新世界SF
私は、最愛の娘を凌辱した挙げ句に殺した犯人を――許せなかった。少年法に守られて、極刑にもならずに、今ものうのうと生きている、あの鬼畜、あの悪魔。娘のいない人生など、何の価値もなかった。私自身は、どうなってもよかった。だから包丁を握りしめ、メッタ刺しにして殺してやったのだ……、罪にふさわしい罰を与えてやったのだ……! しかし、我に返った私は復讐の決行を決意した瞬間まで引き戻されていた。何度殺しても、何度殺しても、時計は先に進まない――。

相互フォロワーさん(@miyayou200920)のデビュー作ということでgetさしてもらったんやけど、なにこれ!?すごい完成度!めちゃくちゃおもろい!すごい!文章力も構成力も仕掛けも冴えまくってる!巧い!そしてなにより久々にSFで情熱を感じた!
普段ツイッターで不穏なハンドルネームのフォロワー達と不毛なRT会話ばっかりしてはる人と同一人物とは思われへん!(フォロワーのフォロワーさん、見ず知らずやのにdisしてすいません)
物語は、いわゆる時間ループ物。同じ一日を繰り返す。しかし面白いのは、普通は主人公だけが時間ループするのが定石なところ、本作はループ現象が伝播していく!同じ一日を繰り返していると認識する人がだんだん増えてくる。そうすると社会はどうなっていくか?どうせ明日は来ずにリセットされた今日がまた来るということで、犯罪が激増。ある特異な現象が起こったときに社会はどう変化するか、シミュレーションするのがSFの醍醐味だと思うけど、本書はまさに!ループ現象によって、個人の行動が、そして社会が、どうなるのか?上手いこと思索している。素晴らしい!
まず第一章から凄みがある。娘を惨たらしく殺された母親が犯人に復讐しに行く日にループ現象が始まる。現象に対して、いろんな可能性を考えつつ復讐をどうするか最後に決めた決断。これ単体でもホラーSFの傑作。この凄まじさよ。
第二章では、学校が舞台。ループ現象が多くの人に伝播したら世界はどうなるのか、見事にシミュレートされている。それと同時に、学園ドラマの中にとある仕掛けまで!巧い。
第三章は舞台変わってカナダの総合格闘家。なに作者の趣味の格闘技に我田引水しとるねん、と思いきやこれまた読み応え!ループ世界における、アスリートの在り方や格闘技の興行について、しっかり思索されていて読み応え充分!ファイトシーンの綿密さは作者の面目躍如!細かな描写は分からんが、熱さは伝わる!そしてさらにここでも描写に仕掛けが。巧い。
第四章はまた舞台変わってアフリカのジャーナリスト。ループ世界は映像もメモも全て明日にはリセットされる。それでも報道を続ける使命感。過去のとあるニュースもカットバックで描写されて、ここにも仕掛けが!ほんまに驚くほどに筆力が高い!
最終章は舞台戻って日本の中学生。連作短編でそれぞれの話が有機的に繋がる構成の上手さ。そして実は最終章主人公は第一章主人公と同じ行為をしていると告白。同じ行為だけど全く逆の意味でしかし似た信念を持ってやっている。このアタマと締めの物語の対比を思いついて構成した凄み!すごい!
本当にいいSFを読んだと久々に思えた!