くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

小川哲『嘘と正典』

あらすじ
マルクスエンゲルスの出逢いを阻止することで共産主義の消滅を企むCIAを描いた歴史改変SFの表題作をはじめ、零落した稀代のマジシャンがタイムトラベルに挑む「魔術師」、名馬スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる青年の感動譚「ひとすじの光」、音楽を通貨とする小さな島の伝説「ムジカ・ムンダーナ」など6篇を収録。圧倒的な筆致により日本SFと世界文学を接続する著者初の短篇集。

どれも吸引力のある物語性で傑作ぞろい!これは直木賞候補にもなりますわ。でもどの話もSF要素はスパイス程度なのね。もっとガッツリなのかと思ってた。個人的には、奇術師とタイムトラベル、スペちゃん(c.v.和氣あず未)、共産主義を歴史から消去、あたりがお気に入り。『ゲームの王国』や『地図と拳』などの長編も挑みたくなってくる筆力だった!

  • 「魔術師」

マジシャン竹村理道の一世一代の奇術。タイムマシンで19年前に行くという。果たして19年越しにタネを仕込んだ奇術なのか、本当のタイムマシンなのか?
静かな筆致で激動の人生を描く。人生を賭けた一撃という壮絶さ。これは本当に傑作だ。

  • 「ひとすじの光」

父親が遺した名馬スペシャルウィークの血統の資料から立ち上がってくる主人公の人生。これも凄かった!
スペちゃん(c.v.和氣あず未)といえば、オレが中高のころに競馬好きの奴らがよく賭けてたよね(!?)
スペちゃんの挫折からの栄光と、スペちゃんの御先祖様の紆余曲折の歴史が、主人公の小説家生活のエアポケットと上手くオーバーラップして、これまた傑作!
これは、きみの愛馬がずきゅんどきゅん走り出す小説でした!

  • 「時の扉」

「時の扉たたいて、ここから今飛び出そう♪」みたいな話だったw
過去を変えることができる「時の扉」を巡る、千夜一夜物語風の王と語り手の話。と見せかけて後半で見えてくる、違った構図。まさかそこに繋がるかという驚き!この人物のまた違う描き方。上手い話だった!

子供の頃からピアノ習熟を押し付けてきたスパルタ父親が遺したテープ。その中に入っていた音楽をたどるとフィリピンの孤島の民族に。その民族では音楽が通貨!?
またまた父子の相剋がテーマ。そして一度も演奏されたことのない至上の音楽という魅惑的な響きGOOD!

  • 「最後の不良」

ブームというもの自体が終わりを告げた近未来。均質化した沈滞だけが正義という時代の空気。断捨離の行く末か?そんな中で、昔の不良ブームの格好で爆走する男。なんかマジメな文章だけどコメディな、変化球な話。

  • 「噓と正典」

モスクワ駐在の大使館員という肩書のCIAモスクワ支局員とソ連の機密に触れる立場のロシア人技師。KGBの眼から逃れながらのスパイ活動。そんな中、技師は過去にメッセージを送る技術を発見する。その技術でエンゲルスマルクスの出会いを阻止し共産主義を歴史から消し去る。
面白かった!一番SFしてた!緊迫したスパイ描写。そして共産主義の歴史。それが本当に消し去れるのか。熱い!そして最後の終わり方。まさかそこに繋がるとはという捻り。これは傑作。