くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

春暮康一『法治の獣』

あらすじ
惑星<裁剣(ソード)>には、あたかも罪と罰の概念を理解しているかのようにふるまう雄鹿に似た動物シエジーが生息する。近傍のスペースコロニー<ソードⅡ>は、人びろがシエジーの持つ自然法を手本とした法体系で暮らす社会実験場だった。この地でシエジーの研究をするアリスは、コロニーとシエジーをめぐる衝撃の事実を知り――戦慄の表題作に、ファーストコンタクトの光と影を描ききる傑作2篇を加えた、地球外生命SF中篇集。

すごい!ハードSFの傑作だった!異星の生物とコンタクトして知性があるのか探索する。そんなシンプルなテーマ。しかし異星生物学を徹底的に想像したアイデア。ここまで発想が出てくるか!さすがグレッグ・イーガンの「ワンの絨毯」やハル・クレメントの『重力の使命』にインスパイアされただけある!しかしそれだけでは終わらずに、異星生物とコンタクトすることによって、いらぬ影響を与えてしまう可能性が出てきてしまう。その葛藤も読み所。人間が手を加えることが、どこまで自然なのか。良し悪し考えあるよなー。なんしか異星生物についてのハードSFであると同時に、平易な文章で読みやすい。いいSFを読んだ!

  • 主観者

地球から十光年先の海洋惑星。そこに七本足のクラゲのような生物ルミナス。一千万くらい個体がいる中、それぞれ触手の先で光パルスでコミュニケーションしている?そこを訪れた5人の探査チームはコンタクトを試みる。人間がコンタクトを取ろうとする行為がどこまで異星の生態系に影響を及ぼしてしまうのか。葛藤。でもここまで注意して。厳しい。そしてこの話がネタフリになって、最終話に繋がる構成が上手い。

  • 法治の獣

惑星<裁剣(ソード)>には、一角鹿のような生物シエジー。知性はないようだが独自の行動規範を持っている。「不快」を避けることを基本として行動している。不快があったら排除。その集団姿勢があたかも罪と罰のようなシステムになっている。例えば、Aが他者を傷つけたら集団にとってAは不快なので追放、みたいにあたかも法律のように行動する。
そしてそれに感化された人類は惑星の軌道上にコロニーを作って、そのシエジーの法律をAIで人間に翻訳して、その法律の下で暮らしはじめる。自然からもたらされた自然法と崇めて、なかば宗教のようになっている。
これまた凄い話。これもまた翻訳SF(イーガン)みたいな、奇抜なSF設定のアイデアと人は何を信じるかイデオロギーの問題を融合させた硬質なSF。最大多数の最大幸福は正しいのか?この最後のカタストロフも翻訳ものっぽい。

  • 方舟で荒野をわたる

惑星オローリンは、自転も地軸も不安定で昼夜がランダムにくる。そんな星にも生物が。100メートル以上の巨大な水分の玉。スライム?外皮も生物で、その中の水分の中にも様々な動植物がいて、全体で複雑な生態系を作っている。しかもその100メートルが、この惑星の不安定な昼を求めて進み続けている。はたしてこのランダムな昼を計算して進んでいるのは確かだけど、どこにそんな知性が?
これまたすごい話。よくこんなアイデアが発想できる。二段三段と新事実が判明して、この知性の秘密が明るみになる。この知的興奮よ!本当にすごい作家さんだ。
ところでこの作者名は、ハル・クレメントをもじっての命名らしいけど、なら「春暮麺人」じゃないのか?wいつかPNの命名も明かされることを期待したい!

収録作品

  • 主観者
  • 法治の獣
  • 方舟で荒野をわたる