くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

後炎(アフターバーナー)のイカロス

半沢直樹』の第二期最終回に触発されて書きました。ってかほぼ最終回丸パクリです!そして眉村卓『消滅の光輪』アシモフ木星買います」を取り入れた、SF版半沢直樹です。

銀河帝国航空に対する債権放棄の件、お断り申し上げます」
ハンザワ・PPK・ナオキ司政官は毅然とした態度で宣言した。
ここは天の川銀河内21の種族が参加する汎銀河連合政体の公開会議場。銀河帝国航空の経営改善特設委員会が開かれている。もちろん全銀河内にタイムラグなしの超光速通信生中継されている。
銀河帝国航空とは、天の川銀河内に網の目のように路線拡大し、超光速宇宙船の定期航路を運航している最大手航宙会社である。しかし近年では、極度の業績悪化により、再建計画の下方修正を繰り返すも業績回復の兆しが一向に見られない状態となっている。ついには汎銀河連合政体の与党勢力による「銀河帝国航空再生タスクフォース」が立ち上げられた。
一方のハンザワ司政官は、太陽系を統治する地球中央経営機構のエリート機構員である。地球中央経営機構とは、地球を中心とする太陽系の諸惑星を統治する地域政府であり、汎銀河連合政体にも参加しているが、今回の銀河帝国航空の再建に対しては激しく対立している。地球中央経営機構は、銀河帝国航空に対し700億アースドルの融資をしているが、先述のとおり業績は悪化の一途をたどり業績回復の兆しが見られない。そこでハンザワに白羽の矢が立ったのだった。ハンザワは地球中央経営機構のホシノワタリ頭取から直々の命を受け、銀河帝国航空の修正再建計画のフォローに奔走していた。
そこに横やりを入れてきたのが汎銀河連合政体の「銀河帝国航空再生タスクフォース」である。汎銀河連合政体の与党である新星党は、支持率浮揚のアピールのため、銀河市民に人気の高いシライ・R4・ジュンコステル航宙運輸大臣をタスクフォースの立ち上げ役に据えた。また再建案作成の実務リーダーとして、策謀家で知られるヤスタカ・ツツイ弁護士が名を連ねた。そしてタスクフォースは、地球中央経営機構に対し銀河帝国航空への融資全額700億アースドルの債権放棄を迫ったのである。


「改めて、銀河帝国航空に対する債権放棄の件、お断り申し上げます」
「世論を無視するつもりか?」
委員会に債権放棄拒否を宣言したハンザワに対し、委員会のトップでありタスクフォースを実質支配してきた政権与党・新星党のヴェノミ幹事長が吠えた。
しかしハンザワも黙ってはいない。
「世論は決して一つではないはずです。我々機構の立場を理解する世論はないのでしょうか?自主再建が可能な大企業で借金を棒引きにするのなら自分たちだって救ってくれよ、という世論はないんでしょうか?」
「しかしね、ハンザワ君?大多数の世論は……」
幹事長が割って入ろうとするが、ハンザワは続ける。
「大多数の世論に従えというのは、あなた方新星党が掲げる弱小種族救済の政党理念とも矛盾するんじゃありませんか?ヴェノミ幹事長。その点、どうお考えなのかご説明いただきたい」
「……」
幹事長は返す言葉もなく押し黙る。
「シライ大臣、あなたはどうお考えですか?」
ハンザワは、幹事長の隣に座るタスクフォースの責任者、シライ大臣に水を向けた。
「私たちタスクフォースが作った再建案は完璧なものです。ですが正直申し上げて、地球中央経営機構が苦労の末に作り上げた再建案と瓜二つ。ほとんど丸写しに近いものと言えます。時間をかけたにも関わらずタスクフォースは債権放棄という安易な政策以外には、機構を超える案を見つけることは出来ませんでした。残念なから私たちが立ち上げたタスクフォースは、なんらその使命を果たせなかったと言えます。これは任命した私の責任であり、実務リーダーであるヤスタカ・ツツイ弁護士の怠慢によるものです!」
ヴェノミ幹事長の後ろ盾があってこそ大臣にまで上りつめたシライ大臣が、まさかの幹事長に対して反旗をひるがえしたのである。ざわめく会場。
「おいアマ!」ツツイ弁護士は激昂する。
「ここは会見の場です!恥を知りなさい、俗物!言い換えれば、機構が提案した再建案に基づけば銀河帝国航空は債権放棄などしなくても、充分に再建は可能であると、私は考えます!」
シライ大臣は、ツツイ弁護士の怒声にもひるまず、整然と続ける。
「シライ!」ヴェノミ幹事長も前足で机を叩きつけながら、吠える。
シライ大臣の道義心を信じて秘密裏に大臣を説得していたハンザワは、理路整然と再び宣言する。
「ありがとうございます、大臣!以上を理由として、地球中央経営機構は債権放棄を断固として拒否します!」


「シライ君、何かあったか知らないが、君の考えはよーく分かった。これで失礼する」
風向きが悪くなったヴェノミ幹事長は退室しようとする。しかしハンザワは畳み掛ける。
「お待ち下さい、ヴェノミ幹事長!まだ話は終わっていません!先程大臣は、タスクフォースの再建案は我々が提案したものと瓜二つとおっしゃいました。しかし違う点が一つだけあります。汎銀河ハネダ-異星島路線です。我々が赤字を理由に撤退予定にしていたその路線だけを、なぜかタスクフォースは撤退予定から外している!どういうことですか?幹事長!」
「私に聞かれてもね?」この期に及んで知らぬ存ぜぬの幹事長。
「では私から説明しましょう」
ハンザワは続けるが、焦る幹事長は圧力を強めた声でけん制する。
「待ちなさいよ、ハンザワ君。この会見は全銀河市民が注目しているんですよ。軽率なことを言うと御機構の名にキズがつくことになる。わかってるんでしょうねー?!」
「もちろん承知の上です」ハンザワは続ける。「今から80年前、当機構のQT出身のキmotor常務に、そちらにいらっしゃるヴェノミ代議士からある個人融資を持ちかけられました。QTとは当機構の量子頭脳技術ロボット官僚のことです。その融資は、木星の異星島市にあるヴェノミ代議士のファミリー企業『異星島ステート』が当時二束三文の価値しかなかった木星の土地を20億アースドルで購入するための転貸資金です。その土地は十数年後、異星島宇宙港の建設予定地となって値上がりし、異星島ステート社は巨額の利益を得たのです。QTはその金儲けのカラクリを知りつつ、ヴェノミ代議士に20億アースドルを融資しました。地球中央経営機構として運営モラルを問われても仕方のない与信行為です。これについて当機構は謝罪の上、処分を受ける覚悟でいます」ハンザワは頭を下げた。
「聞き捨てなんことを言うなー!」幹事長が吠える。「みなさん、私がその融資を受けたのは、又イトコの娘婿が経営する会社の資金繰りを助けるためなんですよ。私がそれで金儲けをしたようなことを言われるのは甚だ心外だ。発言を取り消せ!」
「まだ続きがあります」ハンザワは止めない。「その異星島ステート社ですが、調べたところ65年前から定期的に数億の現金を口座から引き出していました。その内の1000万アースドルは口止め料として融資に関わったQTのキmotor常務に振り込まれていました。そして残りの金は全て、ヴェノミ幹事長、あなたが受け取られていたんですよね?違いますか、幹事長!!」
「事実無根だ!とんでもない濡れ衣だぞ名誉毀損だ発言を撤回しろ謝罪しろ謝れ!!」
幹事長はたてがみを振り乱して威圧する。しかしハンザワは受け流す。
「間違っているのなら謝ります」
「だったら然るべき証拠を見せてみろ!どうなんだ!」幹事長は、身体にまとった緑の触手がのたうったような模様の外套をひるがえし、語気を強める。
「ございます。お見せしましょう。ここに二つの資料があります。一つは異星島ステート社の口座の出金記録。そしてもう一つは、くじら座タウ星銀行にある、ヴェノミ幹事長、あなたの隠し口座の入金記録です。この二つの資料の数字、完全に一致している!合計100億アースドルもの不正入金。あなたはこれらの資金を、選挙運動収支報告書にも政治資金収支報告書にも記載していません。これはどういうことなんでしょう。ヴェノミ幹事長!」
「記憶にないな」幹事長はギョロリとした目を見開きながら、完全にとぼける。
「ヴェノミ幹事長。『記憶にございません』で済むのは汎銀河国会での答弁でだけの話。そんな馬鹿げた言い訳、一般社会では通用しない!いま多くの銀河市民があなたを見ているんです。銀河市民に向けきちんと説明してください」とハンザワ。
「誰も助けてはくれませんよ。説明できないのなら謝罪すべきです。それが政治家として人として最低限度の義務ではないですか?」シライ大臣も続ける。
「政治家の仕事とは、人々がより豊かに、より幸せになるために、政策を考えることのはずです!今この汎銀河は大きな危機に見舞われています。航宙業界だけでなく、ありとあらゆる業界が、厳しい不況に苦しんでいる。それでも人々は必死に今を耐え忍び、苦難に負けまいと必死に歯を食いしばり、懸命に日々を過ごしているんです。それはいつかきっとこの汎銀河にまた誰もが笑顔になれるような明るい未来がくると信じているからだ!そんな銀河市民に寄り添い、支え、力になるのがあなた方政治家の務めです!あなたはその使命を忘れ、銀河市民から目をそらし、自分の利益だけを見つめてきた。謝ってください!この汎銀河で懸命に生きる全ての人に、心の底から侘びてください!!」
「幹事長!やりなさい!銀河市民のために!」シライ大臣は叫んだ!
「ヴェノミー!土下座しろー!!」ハンザワも叫んだ!
するとヴェノミ幹事長は机の前にそろりと出ると、アルファケンタウリ人特有の前足と後ろ足を器用に折り曲げ、唐草模様の外套が床に着くくらいまで突っ伏し、大きな獅子のような頭を床に擦り付け、そしてその姿勢のまま絶命した。
「これがホントの、し・し・ま・い・death!!」
全てを見届けた大和田のセリフが全銀河に響き渡った。