くじら座ソーダ通信

主に読書(SFとミステリ)やアニメについて書きます。最近の読書感想は「漫才風読書感想」をやってます。カテゴリーから「漫才風読書感想」を選んで読んでみてください!

道尾秀介「弓投げの崖を見てはいけない」

(この短篇のオチを披露するので重大なネタバレです。ご注意下さい!!)
まず初版には致命的な誤植があるようです(http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488017354)。この短篇の本来の狙いは「三人のうちラストの事故で轢かれたのは誰か」をリドルストーリー的に謎にしつつ推理の余地を残すという事だろうのに、この誤植でぶちこわし。事件の時刻には夫・邦夫しか事故現場にいない事になります。こんな誤植がミステリ小説にあっていいのか??
さて、誤植が修正された事によって、事故現場には「夫・邦夫」と「チンピラ・雅也」と「刑事・隈島」の三人がいた事になります。そのうち誰が車に轢かれたのか??地図(http://www.tsogen.co.jp/gamakura/)を見ながら以下どうぞ。
まずは、正確な事件現場はどこか、です。まず弓子の部屋ですが「二階の外廊下を進み、一番奥のドア*1とあります。つまり、地図で言うと二階の一番南の部屋です。そして事故のシーンでは、「弓子は身体をドアの外に押し出して(中略)外廊下の柵に両手ですがる*2弓子は柵の手すりから上体を乗り出すようにして両目を見ひらいた*3弓子の真下で、一つの人影が、ふわりと宙を飛んだ*4とあります。つまり正確な事故現場はゆかり荘南側の部屋の真下となります。
さて第一の候補「夫・邦夫」です。邦夫は、部屋を出てゆかり荘北側にある外階段を使い、トンネルに向かいました。つまり事故現場であるゆかり荘南側は通っていない事になります。となると、車に轢かれていないのではないでしょうか。
次に第二の候補「チンピラ・雅也」です。彼は、中央商店街中ほどにあるスーパーで包丁を購入した後、ゆかり荘へ向かおうとします。このとき彼は「囃子台を追い越すように*5商店街を抜けていきます。囃子台は「商店街を南端から北端へじりじりと移動する*6と記述されています。それを「追い越すように」走ったとすると、彼は商店街の北端を抜けるルートを通ってゆかり荘に向かった事になります。このルートを通ってゆかり荘に向かってゆかり荘の外階段を駆け上がろうとするのに、事件現場のゆかり荘南側は通りません。となると、車に轢かれていないのではないでしょうか。
最後に第三の候補「刑事・隈島」です。彼は、スーパーの近くで、包丁を持った雅也がゆかり荘に向かったと知り、自分もゆかり荘に向かいます。その際に彼は人混みを避けるために「囃子台の動きと逆行するように*7動きます。つまり商店街の南端を抜けるルートをとった事になります。このルートの場合、事故現場であるゆかり荘の南側を通ります。よって、車に轢かれたのは彼でしょう。
これで正解だと思うんだけど、どうでしょう??道尾さんのあとがきによる三つのヒント「囃子台の進行方向」「弓子の部屋の位置」「アパートの外階段の位置」もすべて使ってるし。それにしても、元彼女で現よその人妻を思って行動しただけなのに、車に轢かれて死亡(?)って、なんて浮かばれない嫌な話なんだ。

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